ピザハット&ナポリの窯のバイトをかけもちした結果“珍事件”が バイト芸人・ピストジャムが「同業バイトかけもち」を勧める理由とは

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異例の「同業バイトかけもち」

 慶應大学卒、吉本所属、芸歴20年――これまで一度もブレークすることなく、50以上のバイトを経験してきた“バイト芸人”・ピストジャム。そんな彼が、珍バイト遍歴やバイト芸人の生き抜き方を赤裸々につづった『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)を10月27日に上梓した。今回、彼が明かすのは「同業バイトかけもち」のススメだ。

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 ピザのデリバリーをかけもちし出したきっかけは、シフトが入りづらくなったからだった。ぎりぎりの生活をしているので、一日でもシフトが削られると翌月の生活が苦しくなる。ふだんは、そうなると日雇いのバイトをしてしのいでいたのだが、あるとき「毎回新しく日雇いのバイトを探すより、最初からピザのデリバリーをかけもちしておけばいいんじゃないか」とひらめいた。

 調べると、近所にあるナポリの窯というピザ屋が配達員を募集していたので、すぐに面接を受けに行った。店長に履歴書を渡し、面接が始まったのだが、予想もしない反応をされた。
「いままでデリバリーの経験はありますか?」。僕は正直に、「下北沢で酒の配達を4年して、そのあとピザハットでバイトを始めて、いまもバイトしています」と答えた。

 すると店長は、「え! いまも?」と大きな声を出した。「かけもちでやりたいんですけど」と言うと、店長は眉間にしわを寄せて「えーっ」とこぼしながら、明らかに困ったという表情を浮かべて黙りこくってしまった。そして、重い口を開いて「ピザハットさんは競合店ですし、いままでそういう他社でバイトしている人をかけもちで雇うっていうケースは聞いたことがないんで……。ちょっとこれは上司に相談しないと……」とけげんな顔をされた。

 そりゃそうか。クロネコヤマトでバイトしている人が、佐川急便でもバイトしたいと言って面接に来たら、そう言われても仕方ないよな。そう思った。が、それと同時に、これはバイト生活において一つの発明だと確信した。

困惑する店長

 だって、吉野家でバイトしてる人は、絶対に松屋やすき家でも即戦力になる。コンビニなんて、もっと顕著だろう。セブン-イレブンでバイトしている人は、ファミリーマートでもローソンでもすぐにできるはずだ。人員を確保したい店にとっては、研修期間が圧倒的に短くて済むし、ウィンウィンの関係になれるはずだ。

 ただ、実際に同業でかけもちしようとするバイトなんてほとんどいないのだろう。僕もまわりで聞いたことがない。それに、店側からしたら確かに気持ち悪いかもしれない。これは、後日ナポリの窯の店長から聞いたのだが、店長は僕のことを、ピザハットから送り込まれたスパイだと思ったらしい。

 店長は面接をいったん中断して、上司のかたに電話をし出した。「いまピザハットでバイトしてるというかたが、うちとかけもちしたいと言って面接に来てるんですけど……」。

 面接を受けている部屋は店のバックヤードだった。休憩中のバイトの人もそこにいて、「この人、ピザハットでもバイトしてるんだ」という目で見られているのがわかった。気まずい。だが、その人もことの顛末がどうなるのか気になる様子で、店長が電話を切るのを心待ちにしている感じだった。

 電話が終わった。店長は、はにかんで「採用で」と言った。僕が「ありがとうございます」と答えると、そこにいたバイトの人は笑っていた。

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