使い古された表現「忙しい現代人」はホント? 30年以上前から広告コピーに(中川淳一郎)

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 いつも行っているドラッグストアの店内アナウンスは「カンセンタイサクノテッテイヲー!」などと一切言わず、(1)各種商品の宣伝(2)万引き犯がいたら通報し、安心な買い物ができるようにしよう(3)レジが混んできたら従業員はヘルプに入れ──が主です。実に効果的な店内アナウンスです。貼り紙にしても「当店では価格を安くするためポイントカードやキャッシュレス決済は導入していません」とある。実に合理的です。

 しかし、多くの小売店でもっとも大事なアナウンスは、マスク着用・アルコール消毒しろ・少人数で来い・レジでは他の客との間隔を空けろ・短時間で帰れといったものになっています。つまらん買い物だ。

 それはさておき、冒頭のドラッグストアのアナウンスで毎回笑ってしまうのが、疲労関連に効果があるとされるサプリの宣伝文句です。ダンディーな男性の声で「忙しい現代人は……」という言葉から開始し、いかにそのサプリの成分が疲労回復に効果があるかを述べる。

 これの何がおかしいかといえば、1988年、「24時間戦えますか」のコピーで知られる「リゲイン」の時代を経て、私が大学生になった93年、すでに「忙しい現代人」という言葉は普通に使われていたのです。いや、現代人、スマホ見てばかりで暇でしょうよ。「現代人」はなんでいつも忙しいことになるんだ。

 知り合いの医療従事者は、朝の7時から23時まで働く日々が続いたと嘆いていましたが、これは少子高齢化による若手労働人口比率の減少と、コロナ過剰対応による人手不足が招いたものです。リモート会議や、PCでの書類作成により合理化ができたので、本来現代人は昔より時間に余裕があるのに、深く考えず「忙しい現代人」と使ってしまう。

 ライターの知り合いにこれらへの違和感を伝えると、こうした定型句を使いがちであることを反省していました。「街が賑わうクリスマスシーズン」「若者の街・原宿」「何かと忙しい年末年始」「夢を抱いた若者が巣立つ季節」「幻想的なライトアップ」「〇〇さんは無言の帰宅となった」などがソレに当たります。

 あと、著名人の発言・行動に対し、SNSの反応を見て安易な記事を書くネットニュースでも、こうした定型句は出ます。「△△の“神対応”に『震えた』『なんという人格者』など絶賛の声」「××氏、洪水被害者に対する『住む場所を考える必要がある』との発言に賛否両論」。

 コレ、本当に卑怯な記事の作り方なんですよ。もちろん「絶賛の声」はあるでしょうし、賛否両論にはなったのでしょうが、まったくメディアとしての批評がない。あと、あえてバカっぽい人のコメントを入れるのもテクニックです。

「◇◇(女性アイドル名)のギャル風コーデ公開に『かわゆす』『キュン死』するの声」

 みたいな感じですね。こうした記事を書くライターは「どんなバカなコメントがあるかなwww」なんて考えながらツイッターやインスタグラムのコメントをチェックしているのでしょうが、こういう記事を書き続けてもスキルは上がりませんよ。まぁ、ライター自体もはや供給過多の、終わった職業なので仕方ないか。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年10月27日号掲載

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