スナク新首相を苦しめるサッチャーの呪縛 「社会なんてものはない」
性風俗産業に集う女性たち
さらにショッキングなニュースが届いている。10月18日付ロイターは「生活費急騰に追い詰められている女性が性風俗産業に走っている」と報じた。
英国各地の慈善団体やセックスワーカーの労働組合は「今年に入って性風俗業を開始・再開する人が増えている」と報告している。
世界第5位の経済大国である英国は、食料・エネルギー価格の上昇率が賃金上昇率を上回っている。今春の実質賃金の下落幅は2001年以降で最大となった。
生活費を賄うために500万人以上が副業を始めたとされているが、その影響は男性より女性の方が深刻だ。
就業機会に恵まれていない女性が性風俗業に集まっているわけだが、この業界の労働者保護は手薄であり、トラブルに巻き込まれるリスクが大きいことは言うまでもない。
多くの英国民が絶望の淵に追い込まれているのにもかかわらず、保守党政権が有効な対策を講じることができなければ、今後英国の政情は著しく不安定化する可能性も排除できなくなっている。
米国も混乱
英国とともに新自由主義を信奉してきた米国の政治も混乱を極めている。
「自由主義者は行き過ぎた。今は社会民主主義的な政治が必要だ」
このように発言しているのは、冷戦終結時に「歴史の終わり」を上梓したフランシス・フクヤマ・スタンフォード大学教授だ(10月22日付クーリエ・ジャポン)。
フクヤマ氏はかつて「自由民主主義と自由市場が最終的な政治・経済形態だ」と主張していたが、その後立場を修正し、「グローバル化が進んで不平等が拡大し、体制への信頼が過去50年間、低下の一途を辿っている。ポピュリズム政治が世界各地で横行している」と危機感を強めている。
1960年代、社会民主主義を標榜する国々は高いインフレと低い成長率に悩まされたために修正を余儀なくされたが、フクシマ氏は「今はもっと社会民主主義的な要素が必要だ」と訴えている。経済成長を重視するあまり、「市民の社会的保護」がなおざりになっているからだ。
社会の分断化が止まらない米国で生活するフクヤマ氏は「ソーシャルメデイアなど閉じられたコミュニティーだけで生活するのは自由主義の行き過ぎだ。人は社会的な存在だ。どんな社会も共通の価値観を持つべきだ」と主張している。
「たかが社会、されど社会」
サッチャーの呪縛(社会なんてものはない)を解かない限り、英国を始め世界の民主主義を再び機能させることは不可能なのではないだろうか。
[2/2ページ]