スナク新首相を苦しめるサッチャーの呪縛 「社会なんてものはない」

国際

  • ブックマーク

 英国のトラス首相は10月20日、辞任を表明した。首相就任から45日しか経っておらず、在任期間は史上最短だ。

 トラス氏の後に残るのは、財源確保のない減税による「成長計画」が招いた経済危機だ。

 トラス氏の急進的な経済政策の提案が発表されるいなや、通貨ポンドは過去数十年で最安水準へと急落した。

 この混乱で国債の利率は上昇し、国民の年金基金も危機に陥った。住宅ローン金利も急上昇したため、住宅購入を望む人々の希望は露として消えてしまった。

 トラス氏は財務相を更迭し、市場に混乱をもたらした減税計画を撤回するなど事態の改善を図ったが、辞任するのは時間の問題だった。

 ジョンソン元首相など対立候補が出馬しなかったことから、スナク元財務相が25日、首相に就任したが、短い期間にトラス氏が英国に残した負の遺産はあまりにも大きい。苦境に陥った英国経済を立ち直らせることは容易ではなく、歴史的な低さに下落した保守党の支持率を回復させることは困難だと言われている。

新自由主義の模範生だった英国

 首相就任前のトラス氏はその政治スタイルからサッチャー元首相と比較されることが多かった。保守党の中興の祖であるサッチャーが遺した言葉で最も印象的なものの1つに「社会なんてものはない。あるのは個々の男たちと女たち、家族である」がある。

 世界に先駆けて近代化した欧州で伝統的な共同体に代わる「社会」という概念が生まれたが、徹底した個人の自己責任を強調するサッチャーはこれを否定し、英国が第2次大戦後に築いた福祉国家体制に大なたを振るった。

 この考えはその後新自由主義と呼ばれるようになり、「すべての経済活動をできる限り市場の競争に任せるべきだ」とする経済思想となった。サッチャー以来、英国は新自由主義の模範生だった。トラス氏は経済成長を急ぐあまり、逆に墓穴を掘ってしまったのだが、社会というシェルターを失ってしまった国民にとってたまったものではない。

 英消費者団体「Which?」は19日「物価高騰のせいで国内世帯の半数が食事回数を減らさざるを得なくなっている」と警鐘を鳴らした。

 9月の消費者物価指数(CPI)上昇率は食品価格の高騰を受け、前年同月比で再び10%を上回っており、数百万人が食事を抜くか、健康的な食事を取れない事態になっている恐れがあるという。

 同団体はさらに「政府が光熱費抑制策の縮小を決定したことから、数百万人が十分な暖房を確保できなくなるだろう」と懸念している。

次ページ:性風俗産業に集う女性たち

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。