したたかな女たちと不器用な男たち… 大好物「鎌倉殿の13人」のキャラクターの悲喜劇を振り返る
前回に引き続き、大好物の「鎌倉殿の13人」を。北条さんちのキャラクターと悲喜劇を振り返ってみる。
【写真8枚】大胆なオフショルの白いワンピース、ピンクチュールのノースリーブなどをまとう「りく」を演じた宮沢りえ
▼兄の野望でてんてこまい
そもそも主人公の北条義時は平和主義でぼんやりした青年。女心に疎く(大量の食料を贈る迷惑行為)、初恋を引きずる一途な男。野心家の兄・宗時(片岡愛之助)が源頼朝をかくまったことから一家の運命は激流に放り込まれる。「純朴な青年が政争に巻き込まれ、理不尽と血涙を経て、大義名分を振りかざす権力者へ」と、変貌する主役を小栗旬が魅せた。画面から体温と血流の変動が伝わってくるほどの快演。
▼ワガママなママハハ
義時の父・時政(坂東彌十郎)も、本来は田舎で土いじりが性に合う。戦場で小便ちびるくらいの小心者だった。それがまさか初代執権の座に就くとは。そのすべては継母・りく(宮沢りえ)のえげつない上昇志向に起因。「後妻(うわなり)打ち(愛人宅を破壊)」の入れ知恵で騒動を起こしたり、「調伏(呪いの祈祷)」の差し金で北条家を分断に導いちゃったり。不幸の元凶だが、女の生きざまをまざまざと見せつけた。
▼姉と妹も小競り合い
義時の姉・政子はいわば勝ち組ね。頼朝を見事に落とし、北条家の隆盛に貢献。負けん気と可愛げと滑稽の三つぞろい・小池栄子が、慈愛に満ちた尼御台を演じる。一方、辛口で皮肉屋な妹の実衣は、姉への嫉妬とコンプレックスも。宮澤エマがひと言余計な妹を好演。
北条家の女たちがいがみ合うと見せて、タッグを組むときも。後妻打ちはそもそも頼朝が悪いと責任転嫁する場面はおかしかったな。
▼荒唐の悲劇と皮肉な奇跡
実衣の夫・阿野全成(新納(にいろ)慎也)の不運は切なかった。愛する妻の笑顔を見たくて、荒唐無稽な調伏(鎌倉殿を呪い殺す)を引き受けたものの、バレて斬首。劇中でも屈指の理不尽な最期。祈祷の類に実績なしの全成が、最期は雷雨を呼ぶ奇跡。劇中、最も善人で優男だった全成の死には号泣。
▼モノ言う妻、モノ食う妻
最初の妻は難攻不落だった初恋相手の八重(新垣結衣)、2番目の妻は敵対する比企家の比奈(堀田真由)。弱気な義時を叱咤激励して、育て上げたふたりだが、不慮の事故と政争の犠牲で去る。3番目はがっつり裏表のあるのえ(菊地凛子)。悪妻キターッ!! 本性に気付かぬ義時の腑抜けも良き味。
▼歴史は繰り返す
北条家の男子は基本、優しくてのんびり屋さんで不器用だ。瀬戸康史が演じる異母弟・時房(トキューサ!)はその権化ね。子供と遊んで肥だめ落ちたりして、場を和ませてくれる。義時の息子・泰時(坂口健太郎)は、まさに継承。人の良さや倫理観、女心への疎さや賢い妻(福地桃子)に諭されるあたりが父にそっくり。わやな北条家を彼がどう紡いでいくか、が今後描かれる。
伊豆の田舎で一家のんびりぼんやり過ごしていれば、凄惨な運命を免れたのに。「権力は人を変える」を体現した北条さんちの面々。第1話から事あるごとに描かれる一家だんらん(あるいは悶着)のシーンはこの作品の象徴でもあり。残り2カ月、はらはらしながら観るわ。