藤井聡太五冠 竜王戦第2局で完勝 「自信がない展開」も見せた「横綱相撲」

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盛り上がった感想戦

「あっ、そうか」「無理筋かと思ったんですけどね」などと、2人は終局後の感想戦で実によく話していた。感想戦で藤井が最も快活に話す相手は、藤井の師匠・杉本昌隆八段(53)が「聡太の同志ですね」と呼ぶ10歳年長の永瀬拓矢王座(30)であろう。だが、気さくで飾らず気難しい所もない優しい性格の広瀬は、15歳年下の藤井にとっても親しみを感じる話しやすい先輩棋士なのだろう。

 ホテルオークラ京都での前夜祭には京都府知事と京都市長も駆けつけた。そこには筆者も取材に行ったが、主催社(読売新聞社)の一員ではないため取材できるのはその場だけ。対局の当日は、まだシリーズの決着が付くわけでもないので、局後の記者会見もなかった。

 それでも2日目の熱戦が続いていた土曜日の午後に、観光目的で久しぶり仁和寺に行ってみた。少し色づき始めた木々に囲まれた対局場から「世紀の一戦」の立会人を務めていた羽織袴姿の谷川浩司十七世名人(60)が係りの人に先導されて出てきて、仁和寺会館のほうへ忙しく歩いて行く姿も見えた。

「どこが悪くて負けたのか分かりにくい」

 この一局、後手番の広瀬は、早々に「3三」に角を上げて、藤井に角交換を誘導し、藤井が成り込んできた角を金で取った。この戦法は「3三金型早繰り銀」と呼ばれるそうだが、そこから銀を中央に繰り出す「腰掛け銀」に展開するという新構想は、藤井にとっても想定外だったはず。広瀬は研究してきたその戦法で途中までは巧みに指していた。それでも2日目の午後からは、攻め合いから藤井が一挙に優勢になり、終わったのが午後4時過ぎと異例の早さだった。

 ABEMAでは木村一基九段(49)が「3三金」について、「角交換を誘って金を3三に上げるので1手得にはなるのですが、非常に形は悪いです。広瀬さんだから許されるのですが、皆さんはあまりやらないほうがいいですね」など、いつもながらの親切でわかりやすい解説をしてくれていた。たしかに素人目にも、玉が危なっかしい「変な陣形」だった。

 終局時まで解説した飯島栄治九段(43)は、「広瀬さんにはこれと言って悪い手があったわけではないようです。本人もどこが悪くて負けたのかが分かりにくい。こういうのはちょっと次へ向けても嫌でしょうね」などと慮っていた。

 まさに、こういう勝ち方こそが真の強者の勝ち方、「横綱相撲」だと感じる。かつて朝日杯将棋オープンで藤井に敗れた行方尚史九段(48)が、「真綿で首を絞められるようでした。気がつくと息ができなかった」と話していたのを思い出す。

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