藤井聡太五冠 竜王戦第2局で完勝 「自信がない展開」も見せた「横綱相撲」
10月22日、将棋の竜王戦七番勝負の第2局2日目が、京都市右京区にある世界遺産の古刹、総本山仁和寺で指し継がれ、初戦を落としていた藤井聡太五冠(20)=竜王、王位、叡王、王将、棋聖=が、挑戦者の広瀬章人八段(35)に105手で完勝、1勝1敗のタイとした。広瀬が2連勝すれば藤井の竜王防衛は尻に火が付きかねなかったが、もはや貫禄の出てきた五冠王は「横綱相撲」でそうはさせなかった。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】藤井五冠の昼食は精進御膳。サーモンの刺身に見えるのは「こんにゃく」とのこと
藤井の大胆な指回し
「桂の高跳び歩の餌食」
将棋を覚えたての人たちにもよく知られた格言である。桂馬の駒の動きは後退できない点では香車と同じだが、香車と違ってまっすぐ前に進めない。そのため、2カ所の行き場が自分の駒で塞がっている状態などで桂馬の頭に歩を打たれると、簡単に取られてしまう。
ところが「AI時代」になった最近の将棋では「そんな格言はすでに過去の遺物」とすら言われる。大雑把に言うと、相手に桂馬を取らせておいて、その代償として局面を有利に進めようとする戦法が広まっているようだ。
積極的に桂馬が跳ねる戦法は、特に藤井の将棋でよく見られる。この第2局もそうだった。序盤で「4四」にまでピョンピョンと跳ねてきた藤井の桂馬を、広瀬はいつでも取れる状態だった。しかし桂馬を取ると、その歩がもともと居た位置に逆に歩を打たれ、攻め込まれるリスクもあった。1日目はそうした状態でにらみ合いが続いていた。
広瀬は比較的早く指し進めたが、藤井は途中で大長考し、初日の一時期、持ち時間には1時間40分もの差がついた。「2日目の藤井は、持ち時間がなくなって苦しくなるのでは?」と思ったが、蓋を開けてみればそんな懸念は無用だった。
8筋の飛車先の歩を進めるという大方の予想を裏切った広瀬の封じ手「4五歩」が開かれた2日目は、広瀬が「4七歩成」から藤井陣に攻撃を仕掛けた。しかし藤井は、角を捨てるなど大胆な指し回しで、後手の攻めを封じた。
藤井は持ち時間を1時間6分余らせる完勝。敗れた広瀬もかなりの時間を残して投了した。王手ではなかったが、105手目に玉の真横に銀を打たれた広瀬には反撃の糸口も見つからず、粘りようもない。投了の直前、広瀬は気持ちの整理のためか少し席を外した。
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