気絶したチームメイトを介抱する間に決勝点…日本シリーズの勝敗を決した「記憶に残る珍場面」

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激突プレー

 いよいよ10月22日から日本シリーズ「ヤクルト対オリックス」が開幕する。過去のシリーズでは、エースの力投や主砲の一発が勝敗を決する場面も多く見られたが、時には「まさか!」と目を疑いたくなるようなハプニングで、日本一が決定したり、シリーズの流れが大きく変わったりするケースがあった。そんな記憶に残る“珍場面”を集めてみた。【久保田龍雄/ライター】

 激突プレーで気絶したチームメイトを介抱している間に、日本一を決定づける勝ち越し点が入る珍事が起きたのが、1970年のロッテ対巨人第5戦である。

 6年連続日本一に3勝1敗と王手をかけた巨人は、2対2の7回無死一塁、森昌彦(森祇晶)がショート後方に詰まった飛球を打ち上げた。右から左への強風にあおられ、フラフラと左翼線方向に流されていく打球を、ショート・飯塚佳寛とレフト・アルトマンが全速力で追いかける。

 直後、身長193センチのアルトマンが172センチの飯塚に激しくぶつかる形になり、2人ともその場に倒れ込んだ。飯塚は脳震盪を起こして気を失った。

「うん、いいプレーだったな」

 間もなくアルトマンは起き上がったが、本来なら真っ先に打球を追うべきにもかかわらず、仰向けに倒れた飯塚を抱きかかえるようにして、必死に何事か呼びかけていた。この間に無人のグラウンドを転々としたボールは左翼ポール付近まで達し、一塁走者・黒江透修が決勝のホームイン。打った森も三塁を陥れた。

 こうなれば流れは巨人のもの。次打者・高橋一三も左翼線にタイムリーを放ち、この回に2点を勝ち越した巨人はV6を達成した。

 その一方で、勝敗よりもチームメイトの介抱を優先したアルトマンの姿に、多くのファンが胸を打たれたのも事実だった。

 巨人・川上哲治監督も帰りのバスの中で、内野手の滝安治に「あの場合、お前ならどうした?」と問いかけた。「自分はアルトマンのようになりたい気もするし……。でも、やっぱり打球を追っかけたでしょうね」と滝が答えると、川上監督は「そうか、アルトマンのようになりたいか……。うん、いいプレーだったな」と評したという(「助っ人列伝」文春文庫ビジュアル版)。

 大きな体とは裏腹に、優しい心の持ち主で、野球に対しても真摯に取り組んだアルトマンは“足長おじさん”の愛称で親しまれ、8年間で通算打率.309、205本塁打を記録した。

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