江夏豊、小林宏、森福允彦…日本シリーズで見せたリリーフエース「伝説の快投」
“小林の14球”
“江夏の21球”から16年後の1995年、今度は“小林の14球”がクローズアップされた。
ヤクルトが3連勝で日本一に王手をかけた第4戦、あとがないオリックスは、完封負け目前の9回に、小川博文の左越えソロで追いつく執念を見せる。
だが、延長11回にリリーフ・小林宏が四球と安打で1死一、二塁のピンチを招く。次打者は第3戦まで10打数6安打3打点と大当たりの4番・オマリーだった。「攻めるしかない」と腹を括った小林は、スライダーと直球で内角低めを突き、たちまち2ストライクと追い込んだ。
オマリーも負けていない。カウント1-2から3球続けてファウルしたあと、小林の7球目、内角直球を右翼ポール目がけて弾き返した。あわや逆転サヨナラ3ランという大飛球は、わずかに切れてファウルになり、球場全体から大きなどよめきが起きた。
しかし、小林は「わかりません。何も聞こえなかった」と勝負に集中し、直球主体の攻めの投球に徹する。オマリーも計8球ファウルで粘り、2-2からの12球目はこれまた飛距離十分の右翼への大ファウルだった。
そして、フルカウントからの14球目、「気持ちで負けたくない」と闘志を奮い立たせた小林は、真ん中低めへのボール気味の直球でオマリーを空振り三振に打ち取ると、次打者・古田敦也も中飛に仕留め、見事ピンチを切り抜けた。
直後の12回、「小林に報いてやりたかった」というD・Jの右越え決勝ソロが飛び出し、ついに2対1と勝ち越し。その裏を小林が3人でピシャリと抑えて逃げ切った。オリックスは第5戦で敗れ、日本一を逃したものの、小林は第4戦での力投が評価され、敢闘賞に選ばれている。
この1勝で流れを掴んだ
最後に紹介するのは、ソフトバンクの8年ぶり日本一への大きなターニングポイントになった2011年の“森福の11球”である。
中日の2勝1敗で迎えたナゴヤドームでの第4戦、勝ってタイに持ち込みたいソフトバンクは、2対1とリードの6回、ホールトンが2長短打と四球で無死満塁のピンチを招く。
ここで、同年60試合に登板し、4勝1セーブ34ホールドを挙げたリリーフエース・森福允彦がマウンドに立った。「とにかく気持ち1本で向かっていった」という森福は、代打・小池正晃をカウント1-2から外角シュートで空振り三振に打ち取る。
次打者は内角に強い平田良介だったが、森福はあえて承知のうえで2球続けて内角にスライダーを投じ、左飛に打ち取った。レフト・内川聖一がポトリと落ちそうな打球を、果敢にスライディングキャッチしたシーンも印象深い。
そして、2死満塁で谷繁元信を2-2から外角低めシュートで遊ゴロに打ち取った直後、マウンドで左拳を握りしめた森福は、地面に向かって振り下ろすようにして、ガッツポーズを見せた。
森福は7回も3者凡退に抑え、2対1の勝利に貢献したのは、ご存じのとおりだ。この1勝でシリーズの流れを掴んだソフトバンクは、4勝3敗で日本一の座に就いた。
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