「ヨシモト∞ホールの楽屋は超優良バイト案内所」 慶應卒のバイト芸人・ピストジャムが語る吉本芸人のリアルなバイト事情

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全国ベスト8に入る超絶ラクなバイト

 もう、話を聞いている途中から笑いが止まらなかった。これは国内トップクラスどころか、確実に全国ベスト8に入ってくる超絶ラクなバイトだ。

 さらに、おにぎりは車の運転は全部自分がやると言ってきた。そのバイトを見つけてひとりで飛び込んだものの、知らない人と2人一組のペアになって、ひと晩すごすのがストレスだったようだ。ペアの相手によっては休憩時間に余計な仕事をやらされたり、お笑いの世界の話を聞かせてくれと、ひと晩中ミーハーな質問責めをされて仮眠が取れなかったり、せっかくラクなバイトを見つけたのに休憩時間がつらいという、仕事の悩みとは思えないことで悩んでいた。それで、僕をこのバイトに引き込んで一緒にペアを組めば、そういったストレスもなくなるし、仕事自体はめちゃくちゃラクだから、たがいに好都合だろうと考えたらしい。

 おにぎりは、車の運転はもともと好きだし、公園をまわるルートはもう覚えているから自分がやる、僕は助手席に座って鍵を閉めていった公園の名前を順番にノートに書いていくだけでいいと言った。現場の人たちにも、知り合いと2人でペアとして働いていいと、すでに許可ももらっているらしい。

 そこまで聞いたときには、もうすっかり楽しみになっていて、すぐにでもそのバイトをしてみたいと思った。しかし、一つだけ問題があった。僕は当時、いわゆるド金髪だったのだ。かたちだけの面接とはいえ、自治体がかかわっている仕事でもあるので、髪は黒くないと厳しいと言われた。なので面接には、ふだんコントで使っている、湯浅弁護士モデルの九一分けのヅラを、最初からかぶって行った。

公園の戸締りをして夜明けを待つだけの仕事

 面接官は、明らかにヅラとわかる僕の頭に何度も視線を送ってきた。が、結局最後まで何も言われなかった。おにぎりの知り合いだからスルーしてくれたのかなとも思ったが、あとでトイレの鏡で自分の姿を改めて見たら、とてもじゃないがスルーできるような見た目ではなかった。頭をヘコヘコさげすぎたせいでヅラが前にずれていて、自分でも正解がどうだったのかわからない状態になっていた。少しずつおでこが見えなくなっていく僕の頭を見て、面接官は気味が悪かっただろう。最終的に見なかったことにしてくれたのかもしれない。

 たぶん面接官はヅラのことを指摘したい気持ちはあったけれど、なんと言えばいいのか言葉が見つからなかったんだろう。就業規則に「ヅラ禁止」と書いているわけではないし、指摘したとしても僕がシンプルにハゲている可能性だってある。だから、注意しづらかったんだと思う。

 さて、無事面接も受かったので、おにぎりと2人一組のペアになってバイトを始めたのだが、正直ラクで最高だと思えたのは最初のうちだけだった。このバイトは忙しいとかきついとかしんどいとかと無縁で、本当に公園の戸締まりをして夜明けを待つだけの仕事だった。なんの達成感も面白みもなかった。もともとバイトなんてそれでいいと思っていたのだが、実際ラクすぎるとそれはそれで考えものだった。

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