「ヨシモト∞ホールの楽屋は超優良バイト案内所」 慶應卒のバイト芸人・ピストジャムが語る吉本芸人のリアルなバイト事情

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超優良バイト案内所

 ルミネの楽屋と∞ホールの楽屋の違いは、この騒々しさの差と思われるかもしれないが、実は一番の違いは他にある。それは、楽屋でバイトの話題が出るか出ないかだ。

 若手芸人は、全員売れていないので全員バイトをしている。なので、誰かが「いいバイトない?」とひとこと声をかけると、一瞬でさまざまな職種のバイト情報が一気に手に入る。しかもそこで手に入る情報は、すでに厳選されている条件のいいバイトであり、そのうえ、自分がバイトを希望すれば紹介というかたちでほぼ100%働ける。無秩序な有象無象のすみかは、超優良バイト案内所でもあるのだ。

 おにぎりに声をかけられたのは突然だった。おにぎりというのは芸名で、僕の1年後輩の芸人だ。ふだんから一緒に遊んだりしているわけではなかったが、たまにネタの相談をされて夜の公園で会って話したりしていた。

 おにぎりは、元バレーボール選手で身長は193センチあった。がたいもよく、体重は100キロを優に超えていた。頭は丸刈り。まるでごつい丸太のような大男だった。

 舞台に立つと、その巨体はさらに存在感を増した。口をすぼめて、前歯をにゅっと出したひょうきんな表情で、間の抜けたくぐもった声を出し、奇想天外なボケやギャグを連発する。その姿は、道化た巨神兵のようだった。

 両手を腰にあてて胸を張り、力道山のようなポーズをして、「こんな体ですが、ジャズが好きです」と言うギャグや、身長を聞かれたときに「193粒です」と米粒になぞらえて答えるギャグが好きだった。おにぎりのあとは、ほかの人がちょっとやそっとおかしなことをしたくらいじゃウケなくなるほど、強烈なインパクトだった。

 プライベートの彼は、芸風からは想像できないほど繊細で真面目だった。そのギャップもあって、僕は余計に彼のことが好きになった。人柄もいいので有名な先輩がたからも気に入られることが多く、後輩ながら尊敬していた。

後輩から紹介されるのは、ラクで割がいいバイト

 そのおにぎりに「一緒にバイトしませんか?」と楽屋で声をかけられた。僕は彼を信用していたし、後輩から先輩に声をかけてバイトに誘うパターンは〈国内トップクラスの、ラクで割がいいバイト〉と相場は決まっているので、内容も聞かずに二つ返事で引き受けた。僕が即答したので驚いていたが、「うれしいです、ありがとうございます」と言って、バイトの内容を丁寧に説明してくれた。

 勤務時間は18時から翌朝6時までで、まず18 時に都内のある区役所に集合。ドアに「○○区巡回パトロール」と書かれ、青いパトランプがついた、パトカーの偽物のような軽自動車に2人一組で乗って、その区のいくつかの公園の鍵を閉めてまわる。明け方になると、今度は閉めた鍵を順番に開けていく……というバイトだった。確かに都内の公園には鍵のついた扉や柵に囲まれた公園があるなとは思ってはいたが、まさかその鍵の開け閉めを、仕事として誰かがやっているとは思いもしなかった。地元の人たちがボランティアでやっているものだと勝手に思い込んでいた。

 公園の鍵をひととおり閉め終わればそこからは休憩時間で、夜が明けるまでの5、6時間はずっと待機らしい。これで日給1万3千円もらえるという。

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