「ヨシモト∞ホールの楽屋は超優良バイト案内所」 慶應卒のバイト芸人・ピストジャムが語る吉本芸人のリアルなバイト事情

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芸歴21年目の〈育成芸人〉

 慶應大学卒、吉本所属、芸歴20年――これまで一度もブレークすることなく、50以上のバイトを経験してきた“バイト芸人”・ピストジャム。そんな彼が、珍バイト遍歴やバイト芸人の生き抜き方を赤裸々につづった『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)を10月27日に上梓する。今回、彼が明かすのは、「ヨシモト∞ホール」のカオスな楽屋事情と、そこで彼が巡り合った「超絶ラクなバイト」の実体験だ。

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 芸人の楽屋の雰囲気は独特だ。

 東京には、テレビに出ている芸人を生で見られることが売りの「ルミネtheよしもと」(新宿)と、これからテレビに出て活躍しようと頑張る若手芸人が集まる「ヨシモト∞ホール」(渋谷)という吉本興業の劇場がある。

 吉本において、この若手芸人という言葉は非常に懐の深い言葉で、年齢、芸歴関係なく、売れていない芸人全般を指して使われている。

 ちなみに僕は、その若手芸人の中でも最低ランクの〈育成芸人〉という枠に所属している。芸歴21年目で44歳になったというのに、吉本の社員から育成芸人と呼ばれ、ずっと育成され続けている。20年以上も育成するなんて、もしかしたら吉本の社員は僕のことをワインか何かと間違えているのかもしれない。

カオスのような「∞ホール」の楽屋

 そんな状況なので、もちろん僕はルミネの舞台には出られない。たまに用があってルミネの楽屋に行くことはあるのだが、∞ホールの楽屋とはやはり全然雰囲気が違うなと思う。ルミネの楽屋では、出番を控えた芸人が舞台前にアイドリングするような感じで軽妙なトークを交わしている。まるでラジオの生放送を現場で聴いているようなぜいたくな心地になるのだが、一方でそのなごやかな空気の中に漂うほどよい緊張感もあり、ここはプロの現場であるとも思わせる。

 それに比べ、∞ホールの楽屋はさながらカオスだ。大楽屋と呼ばれる場所なんてただの広場で、椅子もないので30人ほどの芸人がみんな地べたに座り、寝転び、おのおの漫才やコントの衣装に着替えている。壁に向かってネタ合わせをしているコンビや、たばこを吸いながら女の子の話に熱中している同期がいるかと思えば、そのとなりで声を張りあげてプロレス技のようなのをかけ合ってじゃれている先輩、誰とも話さずおとなしく漫画を読んでいる後輩、携帯ゲームに夢中になりすぎて自分の出番が来たことに気付かず大慌てで舞台に飛び出していく者もいる。∞ホールの楽屋は、学級崩壊の現場のような有象無象のすみかと化している。

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