大阪・カラオケパブ殺人事件 法廷で“推し活”を語った57歳「宮本浩志被告」の精神世界

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ストーカーに多い妄想錯覚

 稲田さんと宮本の接点は約4年前。彼女が大阪市内のカラオケバーで働いていた時、宮本が客として訪れたのが最初の出会いだ。そのバーでも宮本は稲田さん目当てに通うようになり、事件現場となった店に移ってからは連日のようにLINEでメッセージを送ったり、稲田さんに電話をかけるようになる。

「執拗に送られたLINEのやりとりのなかには宮本が自分の食事の写真を送ったものも含まれ、それらについて“彼女は仕事で無理をするところがある。ちゃんとご飯を食べろよというメッセージ”だったと説明。被害者は宮本のLINE攻勢に“しつこくて困っている”と周囲に漏らしていましたが、事件の4日前、宮本に対して“もう店には来ないで”と直接伝えた。これが犯行のキッカケになったと見られています」(同)

 しかし宮本は「来ないで」と言われた日には「(稲田さんから)誕生日プレゼントをもらった」と意見陳述で話し、拒絶されたわけではないと主張。“こうも自分に都合よく物事を解釈できるものか”と傍聴席に座る記者らを驚かせた。

 精神科医の片田珠美氏が話す。

「被害者に対する強い執着とともに、被告は現実世界でなく、みずからの妄想の世界に生きているような印象を受ける。“推し活”も疑似恋愛の一種ですから、妄想錯覚のひとつであるエロトマニー(恋愛妄想)だった可能性も否定できません。こうした妄想錯覚はストーカーに多く、相手が嫌がっている素振りを見せても、“本当は自分に好意を持っているけど、事情があって示せないだけ”などと都合よく事実を歪曲して妄想世界を構築します。その世界が崩れ去ると生きていけないので、妄想世界を守るために相手を殺すという理解しがたい行動に出るケースもあります」

少なくない予備軍

 宮本は地方の国立大学工学部を卒業後、大阪に本社を置く有名メーカーに就職。逮捕時は妻子と4人暮らしで、関連会社に出向中だったという。

「会社員の場合、50歳を過ぎれば組織のなかでの自分の立ち位置や将来像もある程度、見えてしまいます。出世コースにでも乗っていれば別ですが、そうでないと“自分の人生は果たしてこれでいいのか? このまま終わるのは嫌だ”と考える中高年は少なくありません。この手のミドルエイジクライシス(中年の危機)に陥った時、“暴発”の恐れがあるのは、若い時に遊んだ経験もなく、真面目に生きてきた人たちです」(片田氏)

 人生の下り坂で直面する「危機」に際して、自分の趣味に没頭するなど上手く“ガス抜き”できる人もいれば、これまで“免疫”のあまりなかった領域にのめり込む中高年もいるという。

「恋愛経験の少ない人ほど、中年期に推し活や色恋にハマると抑制が利かなくなるケースは珍しくありません。これまでの抑圧が大きいほど、一度タガが外れた時の振り幅も大きく、視野狭窄に陥って思い込みも激しくなる傾向にある。問題は、いまの日本社会でエロトマニーの隘路(あいろ)に嵌まり込む中高年予備軍が少なくないと考えられる点です」(片田氏)

 仮に「妄想錯覚」であったとしても、決して犯した罪が軽減されるものではないが、そのうえで遺族の心情にどう向き合い、さらには再発防止に向けてできることは何か――重い問いが突き付けられる。

デイリー新潮編集部

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