「慶應卒なのに手取り13万円」「2カ月のギャラが900円」 50以上のバイトを経験…芸人・ピストジャムが明かす「バイト芸人のリアル」

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手取り13万円で生きてきた

 ここまで読んできたかたは、僕は売れていないし、こんなバイト体験記を書いているくらいなんだから、お笑いなんて二の次、バイトばかりしてきたフリーターまがいの芸人だと思われているかもしれない。でも、それは違う。

 僕は、吉本から15万円程度のお金がもらえるようになったら、いつでもすぐにバイトをやめられるように、意識して15万円以上稼がないようにしてきた。よぶんにバイトしている時間があったら、ネタを考えたり、ライブの見学に行ったりするほうが自分にとって大切だと思ったし、もしバイトで20万円稼いだら〈20万円のからだ〉になってしまって、もう二度と〈15万円のからだ〉には戻れなくなるだろうなと自覚していたからだ。

 僕のバイトスタイルの基本は、時給1100円、9時から17時までの実労働7時間、週5日勤務だ。これに所得税がいくらかかかるので、それが引かれるとだいたい15万円くらいになる。さらに会社などの社会保険には加入していない僕は、年金や保険料は自分で払わなければならない。それらを差し引くと、手もとには13万円しか残らない。手取り13万。僕は月にそれだけで、いままで生きてきた。

 一般的な社会人の感覚からしたら、手取り13万はきつすぎると思うだろう。しかし、僕は20年以上この生活をこなしてきた。13万あれば今月も大丈夫と思える。もちろん対策は必要だ。

「20年間無勝」

 まず抑えるべきは家賃なので、風呂なし共同トイレの物件に10年以上住んだ。そして、次は食費が問題になってくるので、できるだけまかないつきのバイトをした。その二つさえ押さえておけば、あとは100均を利用したり、自転車で移動するようにしたり、新品のものにこだわらなくしたり、ものを大切に扱って長く使うようにするくらいだ。

 そんなことをいっても、ぎりぎりの綱渡りのような暮らしではあるので、バイト代が予定より1万円でも少なくなると、即、死活問題になる。なので、単発のバイトをするかバイトをかけもちするしかなくなり、自然と経験したバイトの数がどんどんと増えていった。

 この状況を打破するには、とにもかくにも売れるしか方法がない。それ以外、この生活から抜け出すことはできない。そのためには、ネタのコンテストで結果を出すか、テレビのオーディションを受けて出演を勝ち取り、知名度を上げるしかない。しかし、僕はそのすべての戦いに20年間負け続けた。

〈雀鬼〉という異名で知られる雀士の桜井章一さんは「20年間無敗」といわれていたが、僕は「20年間無勝」だ。ヒクソン・グレイシーふうに「400戦無勝」といってもいいだろう。そんなありさまなので、今日もバイトしている。

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