日米韓共同訓練で韓国の国論は真っ二つに… 迷走の本質は「恐中病」
どこに親日人士がいるのか
しかし、保守の反撃に左派は馬耳東風でした。彼らにとって北朝鮮は血を分けた兄弟。米国や日本と一緒になっていじめるから核ミサイルを開発するのであって、南北が手を携えれば北の核兵器は「民族の核」になると信じています。
世界観が根本的に異なるのです。左右の対立は激化するばかり。保守の国会議員やメディアは左派を「従北」と指弾。一方、左派議員らは保守を「親日」と罵倒する泥仕合の展開となりました。
保守系紙、韓国経済新聞のチョ・イルフン論説室長は左派を、事実とは無関係に政敵に「親日」のレッテルを貼る、と侮蔑しました。「【コラム】韓国左派、『親日派』政権攻撃で利益もくろむ」(10月12日、日本語版)です。ポイントを引用します。
・また、親日論争だ。あまりに低レベルでうんざりする。親日という言葉は、常に従北・左派陣営の専有物だった。この攻撃がどれほど計画的で執拗だったのか、親日の実在有無と関係なく「保守=親日派」という等式が成立した。
・もう一度じっくり考えてみよう。私たちの中に果たして日本の国益に献身する人がいるのだろうか。日本による植民地時代が懐かしくて、日本政府から工作金をもらってか? ただ日本が好きだから? 私はいくら見てもそんな人が見つからない。
「親日罵倒」に左派からも疑問符
――あれほどの「反日」国家に、「親日」の人がいるとは思えません。
鈴置:本当に奇妙な主張です。チョ・イルフン論説室長が指摘するように実態がない、単なる罵倒です。しかし、その決め付けが定着し、韓国人は「親日」と名指しされれば、無条件に怯むようになったのです。
もっとも、左派の中にも「親日」罵倒の有効性に疑問を持つ人が出てきました。ハンギョレのキル・ユンヒョン国際部長の「[コラム]『日本パッシング』は不可能だ」(10月18日、日本語版)の書き出しが興味深いのです。
・野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表が最近立て続けに行っている対日強硬発言を批判するコラムを書くつもりだったが、思いとどまった。もちろん、韓日あるいは韓米日3国安全保障協力や対日関係に関し、彼が吐き出した「親日国防」などの極端な言葉に同意しているためではない。
・以前の「桂・タフト協定(韓国では密約と呼ばれる)」発言まで含め、急変する国際情勢とはかなりかけ離れているようなイ代表の「現実認識」は危うく感じられるが、大韓民国の半分ほどの人々はイ代表の日本批判に共感し、うなずくかもしれないと考えを改めた。
李在明代表の発言は現実離れしている、と左派系紙の国際部長も認めざるを得なかったのです。ソウル五輪(1988年)あたりまでは「いつか日本が攻めてくる」と信じている人が多かった。
しかし、海外旅行が自由化され訪日観光客が増えると、そんな見方は急速に薄れました。最近は「国防費から見ても、そろそろ韓国の軍事力が日本を上回る」と自信を深める韓国人が多くなりました。
「日本との演習は不要」が44%
――では、「親日国防」批判を疑わしく見る人が多い?
鈴置:それに関する世論調査は見当たりません。ただ、韓国ギャラップが日米韓の共同訓練に対し聞いています。調査期間は10月11―13日で、設問は「北朝鮮の危険に対応目的の日本との軍事協力は?」です。
「必要」との回答が49%で「不必要」が44%。拮抗した結果でした。支持政党別に見ると、保守「国民の力」支持者の80%が「必要」と答え(「不必要」は14%)、「共に民主党」支持者の66%が「不必要」(「必要」は27%)でした。左右の差がくっきり出ました。
――なぜ、半数近い人が日本との軍事協力を嫌がるのでしょうか。
鈴置:「中国が怖い」からです。北朝鮮の核に対抗しようと日本と軍事協力を進めるうちに、日米韓の対中包囲網に組み込まれてしまう――との恐怖です。もっとも「中国が怖い」と言えば「腰抜け」扱いされるので、左派は「反日」のオブラートにくるんで共同訓練を非難するのです。
10月6日、岸田文雄首相と尹錫悦大統領が北朝鮮の軍事挑発を牽制するために電話協議をしました。韓国との首脳会談に応じなかった日本が、電話協議とはいえ、首脳同士の話し合いに踏み切ったのです。
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