観光バス横転事故 渦中の「三ツ星」観光の元運転手が指摘「ツアー詰込みすぎ」

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「無茶」なルート

 ただし、A氏は企画した旅行会社の責任についても言及する。

 今回のツアーを企画したのはクラブツーリズム社で、美杉観光は運行を請け負う契約形態となっていた。クラブツーリズムは、近畿日本ツーリストグループ系の大手旅行会社だが、A氏は次のように指摘する。

「ツアーに内容を盛り込みすぎることがあるんです。全部が全部とはいいませんが、無茶なスケジュールを組んでいるから、普通に走っていたら絶対に間に合わないということが時々あります。添乗員から急かされて、運転手が慌ててしまって事故につながるということもあるでしょう」

 その「無茶」はルートにも見て取れるといい、

「事故が起きたのは富士山須走口五合目と麓を結ぶ『ふじあざみライン』という道で、私も何度も走ったことがあります。道幅は狭いし、勾配はきついし、ベテランの運転手でも『嫌な道だな』と思うほどです。野口容疑者が事故ルートを走るのは初めてだったそうですが、それなりの経験がなければ、事故は起こさなくても危ない運転にならざるをえない。富士山五合目に行くなら、道幅が広くて安全な『富士スバルライン』を選ぶべきだったと思います」

 なぜクラブツーリズムは、ふじあざみラインを選んでしまったのか。

「スバルラインは有料道路で、あざみラインは一般道。もちろん無料です。ですから、コストを切り詰めようとしたら、あざみラインという選択肢になります。また、あのツアーでは、沼津で昼食をとり、それから三津浜(みとはま)で船に乗り、駿河湾クルージングという予定になっていましたので、その行程を考えると、あざみラインを使ったほうが近道ということになります。

 報道では、事故が起きたのは11時50分ごろでしたが、それから昼食をとる沼津まで1時間はかかりますから、運転手もプレッシャーを感じていたのかもしれません。そういう具合に行程にいろいろ詰め込もうとする体質が、今回の事故の原因になってしまっている面もあるのではないでしょうか。今回の事件を機に乗客の安全を優先して行程を改善してほしいと言いたいです」

 全国旅行支援と水際対策の緩和が始まってから、初めての週末に起こった大惨事である。秋の行楽シーズンで各観光地は賑わっているが、コロナ明けで、旅行の受け入れ側が不慣れで安全がおろそかになっていたなんてことはあってはならない。一刻も早い原因の究明が待たれる。

星野陽平(ほしの・ようへい)
フリーライター。1976年生まれ。東京都出身。2001年、早稲田大学商学部卒業。2017年には『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)の著者として、公正取引委員会で講演を行った。近著に『CIA陰謀論の真相』(同)。

デイリー新潮編集部

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