キャラ全員が魅力的すぎて困る「鎌倉殿の13人」 ワンシーンで人間性と業を炙り出すすごみ

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 三谷幸喜脚本の大河で困るのは、登場人物が全員魅力的なところ。たとえ本筋に絡まずとも、その人物の一生に思いをはせてしまう仕掛けがある。あの歯がなくてフガフガした好戦的な爺さんの孫が医者に! 下手したら根絶やしにされる時代にうまく繁栄してんなぁ、とかね(康(かん)すおんが二役)。

 もちろん、主要人物も多面的に描き、さまざまな顔を見せるので全員絵にしたくなっちゃう。だから困る。ということで、残り2カ月となった「鎌倉殿の13人」を。いろいろとわやな北条さんちは次回まとめてお届け。

 源さんちが平さんちと大げんかしていた時代。敗れた源さんちの三男・頼朝(大泉洋)をかくまっちゃった北条さんちが大げんかに巻き込まれ、親戚筋ともご近所さんとも仲違いや小競り合いをしつつ、いっちょかみして権力を握るまでの物語だ。

 源さん側が権力を握ってからがこれまた大変。京は京で底意地が悪いし、味方に付いた御家人がかんかんがくがく、内輪もめ。野蛮で残虐な時代だが、人間味と茶目っ気も満載。そこに興味津々だ。

 大泉は「ハイソで女好き、不運の優男」から「暴虐な人間不信の塊」への変貌で魅せた。軽妙と残忍は表裏一体、相性がいいと思わせた。

 頼朝の異母弟で、戦の天才・源義経を演じたのは菅田将暉。八面六臂の活躍で平家を滅ぼした後は燃え尽き症候群に。好戦的なサイコパスだが権力と政には興味なし。そこがいい。気迫と希薄の両面を菅田が体現。

 佐藤浩市が演じたのは豪気に見えて案外単純な上総広常。強面の割に見栄えに執着する幼さ、文字を懸命に練習していたいじらしさ。見せしめに斬られた名場面は転換期の象徴(三谷大河で見事に殺される伝統芸)。

 主人公・北条義時と刎頸(ふんけい)の交わりの三浦義村を演じるのが山本耕史。これが実にひょうひょうとしていて、権力の行方を冷静に俯瞰する男。女好きももはや雑食の域で、女の指についた飯粒ひとつ見逃さない細かさ。女から警戒されるタイプを好演。

 御家人衆の中でも狡知に長けていたのが比企能員。演じたのは佐藤二朗。小心者で衣の下に鎧をつけるビビリ。妻(堀内敬子)に尻を叩かれ、権力者と縁者になる策を講じ、次第に覇権争いの怪物へ。臆病・卑怯を異なる笑みで表現、さすが。

 頼朝に最も長く仕え、頼朝の死後は出家した安達盛長。演じるは野添義弘。会議中によく寝るのんきなおじさんと思いきや。頼家(金子大地)の無茶ぶりを断固拒否。実は男気の人。漢なの。

 非道な下人・善児を演じた梶原善も、最後は人間らしさをのぞかせた。弟子(山本千尋)にあだ討ちされる皮肉。

 全部は書けないが、女たちも含めて、人間が多面体であることを教えてくれる。

 戦の報告書の文字や書き方で性格を表現したり、合議制の人数でひと悶着したりの些末な場面も好物。たった一場面で人間性や業が炙り出されるってすごくないか? しかも滑稽。大爆笑。

 他にも、緊張感や無常を効果的に演出する鳥獣や虫の声、長澤まさみのフォロー&ツッコミナレーションも好き。鎌倉殿好きと好きな場面を一晩語りたい気分。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年10月20日号掲載

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