ユニークな商品群をそろえて製粉から総合食品会社へ――前鶴俊哉(ニップン代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】
ロシアによるウクライナ侵攻が世界的な小麦価格の高騰を招き、食品の値上げラッシュが起きている。日本では円安も加わり、先行きが一層不透明になっているが、その中でいま食品会社は何を考えているのか。昨年「日本製粉」から「ニップン」に改名した老舗食品会社のこれからの事業戦略。
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佐藤 知人の小学3年生の娘さんがよく友達と集まって、ケーキやクッキーを作っているそうです。袋の中に牛乳を入れて生地を混ぜ、あとは焼くだけ。それでおいしいお菓子ができあがる。聞けば、ニップンさんの商品なんですね。
前鶴 「めちゃラク」シリーズですね。
佐藤 どうも小学生女子の間でブランド化しているようです。自分で作ることが楽しいのでしょうね。そのプロセスを体験させる知育プラス食育の商品になっている。非常に目の付け所がいいと思いました。
前鶴 私どもは、もともと業務用が中心の製粉会社でしたから、家庭用はあまり強くないんです。でもアイデアは豊富で、ユニークなものがたくさん出てくるんですよ。
佐藤 ケーキやクッキーは薄力粉で作りますが、そこにいろいろ工夫がこらされている。日本は調製粉がものすごく発達しています。
前鶴 「調製粉」は「プレミックス」と呼ばれますが、その配合自体がノウハウの塊ですね。
佐藤 ホットケーキミックスや唐揚げ粉など、外国に行く際のお土産にする人もいます。
前鶴 小麦粉は世界中どこでもなくてはならない食料ですから、各国に製粉会社があり、生産されています。ただプレミックスは、副資材(小麦粉以外の材料)を何にするかや、最終商品の形状、食感などいろいろな要素を考えながら作ります。それで独自の進化を遂げていった。
佐藤 その小麦粉とは関係のない食品もいろいろ展開されていますね。
前鶴 「めちゃラク アイスの素」は、袋に牛乳を入れ、あとは凍らすだけでアイスクリームができます。粉屋だった弊社は、当然ながらアイスクリームを作ったことがない。その意味では画期的な商品です。私の3歳の孫も作っています(笑)。
佐藤 冷凍食品も独自色が強いですよね。ご飯やパスタとおかずがセットになっているものをたくさん発売されている。
前鶴 他社があまりやっていない、主食とおかずを一緒にした「ワンプレート」の冷凍食品をいろいろ作っています。
佐藤 冷凍食品は、競争が激しい分野です。
前鶴 難しいのは、小麦粉という素材を扱っていますから、弊社の小麦粉を原材料としてお使いいただいているお客様と競合してしまう側面があることです。またヒットすると、すぐに同様の商品が上市されるので、そこにも耐えていかなければならない。
佐藤 他社が参入してくる。小麦粉関連でなければ尚更でしょう。
前鶴 アマニ油がそうでしたね。これは非常にいい素材ですが、売れるまでにとても時間がかかりました。ある時、テレビなどで取り上げられて売れ出すと、油の専業メーカーが商品化してきました。
佐藤 体に必要なオメガ3脂肪酸が含まれているアマニ油は、健康食品として認知されましたが、ニップンさんが発信源だったのですね。この商品一つ取ってみても、非常に自由な発想で商品づくりをされていることがわかります。
前鶴 確かに社内が自由な雰囲気だとは思いますね。
佐藤 しかも発想豊かな商品が多い。社内にアイデア部隊みたいなセクションがあるのですか。
前鶴 いえ、ありません。逆にそうした部署を作ろうと思うくらいですが、私が見ていても「よく考えたな」と思う商品は多いですね。
佐藤 それは頼もしい。
前鶴 うまく商売につながるものばかりではありませんけれども。何年か前に、朝食用の冷凍食品を出したことがあります。朝、パンを食べている人が、卵焼きやウインナーを食べたくても、それには手間がかかる。これを冷食にしたらというアイデアが出てきて商品化したのですが、なかなか振るいませんでした。
佐藤 時期が早かったのかもしれない。これから広まりそうな気もします。
前鶴 また、釣りで使うルアーを自然に分解する植物性の材料で作ろうとしたこともあります。これは実現したのですが、ヒットには至りませんでした。
佐藤 非常に面白い発想です。
前鶴 弊社には「ソイルプロ」という大豆タンパクを使った商品もあります。これも製粉とは関係ありませんが、社内から出てきたアイデアです。豆腐からそぼろのような塊を作って、さまざまな料理に応用しています。
佐藤 肉の代わりですね。環境にもいいですから、非常に時代にマッチしている。
前鶴 これはいまブームになって、各社で商品化されています。
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