サハリン1はなぜ日本に不可欠なのか
ロシアのプーチン大統領は10月7日、極東の資源開発プロジェクト「サハリン1」について、新たに設立する会社に事業をすべて移管する旨の大統領令に署名した。
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サハリン1事業には、米エクソンモービルが30%、日本のサハリン石油ガス開発が30%、ロシア国営石油会社ロスネフチが20%、インドの石油天然ガス公社(ONGC)が20%出資している。サハリン石油ガス開発には経済産業省、伊藤忠商事、石油資源開発、丸紅などが出資している(経済産業省の出資比率は50%)。
大統領令によれば、ロスネフチが引き続き20%の出資を保ち、残り80%については新会社が一時的に保有する。ロスネフチ以外の株主に対しては、出資を継続するかどうかの判断を1ヶ月以内に求めるとしている。サハリン2に続いてサハリン1についても、日本は事業継続についての判断を迫られることになった形だ。
サハリン2では三井物産と三菱商事が新たな運営会社への参画を申請し、ロシア政府もこれを承認したことで事業継続が確定した。
日本政府はサハリン1についても権益を維持する方針だ。
西村経済産業大臣は9日「(サハリン1は)原油輸入多角化の観点から大事なプロジェクトだ」と述べたが、このところ、サハリン1の原油生産は大幅に減少している。
サハリン1の原油生産量はロシアのウクライナ侵攻前の日量22万バレルから7月は同1万バレルまで減少しており、今年の原油生産量は従来計画の890万トンから420万トンへと大きく減る見通しだ。
ロシアメデイアは「今回の大統領令は3月に事業撤退の方針を示している米エクソンモービルに圧力をかける狙いがある」と報じている。
サハリン1のオペレーター(操業主体)であり、実際の生産を主導する立場にあるエクソンモービルが撤退を表明して以降、サハリン1の原油生産が滞っているからだ。
ロシア政府は「米国政府の意向を受けてサボタージュを行っているエクソンモービルを追い出し、サハリン1の原油生産を元の水準に戻したい」と考えた可能性が高い。
高まる日本の中東依存
サハリン1の原油生産量の減少は日本にも影響が及んでいる。昨年のサハリン1からの原油輸入は日本のシェアの3.6%を占めていたが、7月にはゼロになってしまった。
そのせいで日本の原油輸入の中東依存度が高まるばかりだ。7月の中東依存度は97.7%となってしまった。1月から8月までの平均も93.8%だ。1973年の第1次石油危機の際の中東依存度(約78%)をはるかに上回る水準が続いている。
原油の中東依存度を引き下げるためにはロシア、特にサハリン地域からの輸入は欠かせない。今回の事業移管でサハリン1の原油生産が回復するのを祈るばかりだ。
サハリン1では現在、原油しか輸出していないが、サハリン2と同様、鉱区には膨大な天然ガス資源が眠っている。
天然ガスがあるにもかかわらず、日本に輸出されないのは、輸送方法に関する問題が障害となっているからだ。
世界の天然ガス輸送の9割はパイプライン、残り1割はLNG(液化天然ガス)だ。生産地と消費地の距離が近ければ近いほど、パイプラインの方が経済的になる。
サハリン2のオペレーターであるシェルは、割高になることを承知の上で日本側の事情を配慮してLNGという形で輸送を開始したため、日本におけるLNG輸入の約1割のシェアを確保することができた。
だが、サハリン1のオペレーターであるエクソンモービルは「近距離にある日本にパイプラインで天然ガスを輸送しよう」と固執したことから、サハリン1の天然ガス生産は暗礁に乗り上げてしまったのだ。
たしかにパイプラインの方が望ましいが、ロシアのウクライナ侵攻後、世界の天然ガス市場は激変している。国際エネルギー機関(IEA)は「世界の天然ガス市場は来年もタイトな状態が続く」との見通しを示している。
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