「五輪汚職」に口を噤むスポーツ界 山下泰裕JOC会長、室伏広治スポーツ庁長官が今すぐすべきことは何か

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スポーツ界は独自の財源確保を

 わかりやすく要約すると、いま日本のスポーツ界を根本的に変えるには、「独自の財源(予算)を確保する」「政財界の支配から脱却する」「競技スポーツ依存からの転換」「有能で信頼できるリーダーの創出」「スポーツの価値観の質的変革」などが急務だ。

 スポーツ関連の年間国家予算がいくらか知っている人は少ないだろう。

 スポーツ庁の2022年度予算は、たったの345億円程度しかない。来年フリーエージェントになる大谷翔平選手がもし複数年契約をするなら、「単年60億円として6年間で360億円を超える可能性がある」と言われている。大谷ひとりが6年契約で手にする金額より、日本の年間スポーツ予算は少ないのだ。これでどうやって、運動部活動の地域移行を実現し、キャッチボールやボール遊びをする公園もない少年少女に「日常的にスポーツと触れ合う環境を提供する」ことができるだろう。

 もちろん、国家予算に依存すればそれだけスポーツが国家の支配を受ける恐れがあるから、スポーツ界が独自の財源を持つのが賢明だ。私は、東京五輪開催以前から、取材を通じて会った関係者に「スポーツの財源確保に向けた法整備」「新たな財源の創出」を提言し続けてきた。それは例えば、コロナ禍で中断してしまったが「スポーツ・ツーリズムの推進」であり、欧米では年間数兆円規模で愛好されている「スポーツ・ベッティングの導入」である。スポーツ・ベッティング(合法的なスポーツ賭博)には抵抗もあるだろうが、ネット活用によって依存症や八百長を防止するセーフティーネットも完備できるという。

キャッチボールのできる公園を

 スポーツ・ベッティングをタブーにするのでなく、国民的議論をする価値は十分にある。なぜなら、年間7兆円と試算される売上の20%をスポーツ界に還元するだけで、年間1兆4000億円もの財源をスポーツ界が確保できるのだ。全国各地に「キャッチボールのできる公園」を整備することだってできる。この財源があれば、部活動の地域移行に不可欠な指導者たちへの報酬も施設も順次確保できるだろう。ところが、賭博への世間の反発を恐れてか、リーダーシップがないためか、本気で提言する動きはなかなか起こらない。

 端的に、いますぐスポーツ界がすべきこと、出来ることを列記する。

1) 山下泰裕JOC会長、室伏広治スポーツ庁長官の赤裸々な告白
2) 2030札幌冬季五輪招致の中断
3) 東京2020検証委員会の立ち上げ
4) スポーツ基本法の改正~本質的な「スポーツの意義」の見直し
5) スポーツ・ビジョンの策定 競技を頂点とするスポーツ・イメージの一新
   中心は、ジュニア、シニアを含めた国民全員のスポーツ参加とその環境づくり
6) スポーツ財源の確立 一部の者が利益を得る悪しき商業主義からの脱却
   スポーツ・ツーリズムの推進、スポーツ・ベッティングの採用、NFTなどの活用など
7) スポーツマネジメント人材の育成
8) 日常的に活用できる公園などの整備・充実
9) 新しいオリンピックの未来像を国民的に語り合う
10) 勝利至上主義からの脱却
   武術など自己と向き合う日本独自の身体文化の再評価

 ざっと挙げただけでも、これだけ思いつく。関係者が見れば、「もうやってるよ」と言いたいものもあるだろう。だが、スポーツ庁や関係部署で検討されているだけで、国民と共有されていないのが問題だ。それは結局、今回の不正同様、一部の人間の利権構造を生み出す温床になる。また現在、国のスポーツマネジメントのビジョンや人材育成のプランづくりを担う大学教授や委員たちの多くは、高橋容疑者とルーツを同じくする元広告代理店出身者が大半を占めている。彼らに任せていたのでは、スポーツよりもビジネスが優先する、商業主義的な内容に陥る懸念を最後に指摘しておく。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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