日ハム「松本剛」は苦節11年…クビ寸前からまさかの大化けで首位打者になった3選手
運命を変えたトレード
今季のパ・リーグは、日本ハム・松本剛が打率.347で初の首位打者を獲得した。今年を除くと、規定打席到達は2017年の1度だけで、昨季も47試合出場にとどまり、104回しか打席に立っていない。そんな男が、シーズン中の左膝骨折を乗り越え、苦節11年目で大輪の花を咲かせた。今シーズン開幕前に松本が首位打者を獲得すると予想した人は皆無に等しかったのではないか。今回は、過去に誰も予想し得なかった“大穴”首位打者たちを振り返ってみたい。【久保田龍雄/ライター】
プロ9年目で初めて規定打席に達し、パ・リーグ史上最も打率の低い.309で逃げ切ったのが、1976年の吉岡悟(太平洋)である。ちなみに、太平洋クラブライオンズは、福岡に本拠地を置いていた球団で、その後、クラウンライターを経て、西武となった。
吉岡はロッテ時代、ほとんど2軍暮らし。73年に45試合出場も、20打数で6三振と結果を出せず、金田正一監督に見限られて、75年に太平洋に移籍した。このトレードが“運命”を大きく変えた。
新旧交代期の太平洋で出番が増えた吉岡は同年、69試合に出場。翌76年も5月に故障離脱した二塁手・基満男の代役で先発起用されると、球に逆らわない巧打を売りに1番に定着し、8月中旬にいきなり打撃11位に躍り出た。
さらに1週間後には2位に躍進し、9月19日、3毛差で門田博光(南海)を抜いて、ついに打率トップに。鬼頭政一監督も「首位打者のタイトルは、どんなことがあっても、ヨシに獲らせたい」と苦労人を全面バックアップする。
“NPB史上最も地味な首位打者”
そして、残り4試合となった10月3日の南海戦、鬼頭監督は2試合欠場中の吉岡を9番で起用した。この日も吉岡が休むと思っていた門田は、意表をつかれて力んだのか、初回のチャンスに一直併殺、2打席目も三振に倒れた。
ライバルの2打席凡退を見届けてから1打席目に立った吉岡は「気持ちがものすごく楽になった」と右翼線に二塁打を放ち、2打席目で右飛に倒れると、ベンチに下がった。2打数1安打で打率.304。一方、5打数無安打に終わった門田は.297と3割を切り、明暗を大きく分けた。
その後、吉岡は10月10日のシーズン最終戦、日本ハム戦で4打数3安打を記録し、打率も.309に。1試合に3本の三塁打を記録するなど、シーズン13三塁打は、現在でもプロ野球歴代6位タイの快記録だ。
14年間の現役生活で規定打席到達が2度しかなく、たった1度のチャンスをモノにした幸運な男は、コアなファンの間で“NPB史上最も地味な首位打者”と呼ばれている。
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