里見香奈女流五冠が棋士編入試験に失敗 名棋士「米長」の格言を地で行った3人の若い試験官

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再挑戦の可能性は?

 これで完全に棋士への道が閉ざされたわけではない。今後も「直近の公式戦の成績で10勝以上かつ勝率6割5分以上」という条件を満たせば再挑戦できる。それを問われた里見は、「最後の挑戦だった。今後考えることはないと思う」と答えた。会見は15分足らずで終わった。

 引退時は別として、将棋で敗れた側だけが記者会見をするというのは非常に珍しい。全国紙のベテラン記者も「負けた里見さんだけ会見させるというのは、ちょっと酷ですよね。終局直後に対局室に我々記者たちを入れて、少し聞かせてもらう形にしてもよかったのでは」と話していた。最近はコロナ対策で対局室には主催者しか入れないとはいえ、同感である。

 ABEMAで解説した今泉は、狩山の中盤の「3七飛車」の受けに「ヒエーッ」と声を出し、「僕には考え着かない手。いいかどうかわからないけどすごい手です」と話したが、すぐにその狙いを説明した。里見を「応援」していることを正直に吐露していた今泉は、終局後もさかんに「残念です。残念」を繰り返した。

 その一方で「狩山四段は存在を大きくアピールした素晴らしい将棋だった」と高く評価した。今回選ばれた試験官は、敗れても失うものはない。今泉は「棋士の本能として、どんな将棋でも対局すれば、投了したくないという気持ちになるのです」と試験官の心情を代弁した。

ハンディもあった

 立会人を務めた福崎文吾九段(62)は「試験官にとっては公式戦ではないので、ストレスもなく気楽に指せる。里見さんはカド番。敗れた原因に、そんなメンタルの差もあったと思う。新人の狩山四段の将棋については、『受け将棋』といわれるくらいで情報も少ない。里見は1局目から次々と、情報の少ない試験官と闘わなくてはならなかった。反対に里見の将棋は、すでによく知られていて研究されやすかった。柔道でいえば、持ち技をみんな知られてしまっている。そんなハンディもあったのでは」と話す。

 負けても失うものもない試験官が何の手加減もなく、真剣勝負で里見を迎えていたことが証明された。間近で見ていた福崎は「独特の将棋を指す狩山四段もものすごく根を詰めて闘っていた。個性的でAIなどにもない人間らしい手が印象的でした。素晴らしかった」と話した。

 将棋界では「相手にとって重要な一局ほど全力で立ち向かうべし」という格言がある。米長邦雄永世棋聖(1943〜2012)の言葉だ。実際、米長は、タイトル戦がかかっていたある棋士をうち負かし、その棋士が「本気で来る奴があるか」とコップを叩きつけて怒ったという逸話がある。米長にとっては負けても構わないような一戦だったという。

 今回の3人の若い試験官(徳田拳士[24]、岡部怜央[23]、狩山幹生=各四段)は、まさに名棋士米長の格言を地で行ったのである。里見にとって悔やまれるのは、岡部との第2局だった。勝ったと思われたが、終盤に失敗して逆転された。これに勝っていれば試験の合否の行方はわからなかった。

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