国葬騒動で復活した「反アベ」 なぜ国葬批判に戦争、原発を持ち出した?(中川淳一郎)

  • ブックマーク

 毎日新聞は9月18日、岸田内閣の支持率が29%になったと発表。7月発表の52%から大幅下落です。普段は「検討使」の岸田氏が、安倍晋三元首相の国葬を珍しく「決断」したため下落するという皮肉でした。

 岸田氏の支持率が高かった理由は、メディアが叩きようがなかったから。安倍氏については左派のメディア・論客・活動家が「奴は極悪人」認定をし、「アベ政治を許さない」とやり続けた。

「憲法9条を改正し、日本を戦争ができる国にする独裁者」との設定を元に安保法制を「戦争法案」と呼び、共謀罪は「居酒屋で上司を殴る相談をすると逮捕される密告社会を作る」と大げさにアベを批判した。

 野党は幹部や人気若手が反対デモに参加しアベを徹底批判。モリカケ桜問題について、国会で延々批判。左派メディアが積極的に報じ、支持率が下がることはあるものの、海外要人と安倍氏のにこやかな姿を見てまた上がる。

 しかし、アベが退陣して以来、左派は叩くすべを失った。せいぜい、アベ時代の官房長官だった菅義偉氏が首相になった直後の「学術会議問題」とワクチン確保が遅いのを責める程度に。岸田氏になってからアベ色が薄く、叩く要素が消えてしまったのです。

 しかし、安倍氏の国葬を決断したところ「あの極悪人を国葬にするとは許せん!」と反対の炎が吹き上がり、世論調査で反対の声が大きいことに力を得て「やっぱアベは悪人」の勢い復活。ただ、そこが理由じゃないです。

 先日、ABEMA Primeという報道番組に出たのですが、反対理由を立憲民主党の辻元清美氏は以下三つ挙げました。(1)閣議決定だけで国葬を決める、国会を無視した決め方(2)内閣府設置法の「国の儀式」は天皇の国事行為のみ(3)安倍氏の功績の判断基準が不透明。

 ノンポリの私もこれには納得ですし、コレが反対理由です。

 番組中では、代々木公園で開かれた「さようなら戦争 さようなら原発 9・19大集会」で国葬反対を訴える様も紹介されました。著名参加者は、日本共産党の志位和夫氏・小池晃氏、社民党の福島瑞穂氏、作家・落合恵子氏、ジャーナリスト・鎌田慧氏ら。

 これに平石直之アナが「なぜ国葬反対を訴えるのに戦争や原発を出すのか? ブレないか?」と立民の小川淳也議員に聞きました。私も平石アナにかぶせ「2010年代前半以降の反原発運動に参加する『いつものメンバー』が安倍氏叩きのため、安保法制や共謀罪をイシューに追加。今回は国葬。いい加減このやり方が倒閣運動では通用しないと思わないのか? 辻元さんが指摘した3点でいいし、原発も戦争も出さなくてよかった」と言ったら小川氏は「意見を述べる人を侮辱するのですか!」的にキレました。さらに「メディアが切り取った一部の映像で何を言うか!」のようなことも言う。いやいや、あなた方が支持するデモを散々取り扱ってきたメディアが、アベの国葬を批判するために取材に来たんでしょ。

 彼ら、国葬後、いかにしてアベを再び世に出して批判するんですかね。「死せる孔明、生ける仲達を走らす」ではないですが、「死せるアベ、生ける左派を走らす」を感じた国葬騒動でした。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年10月13日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。