「岸田首相」肝いりの「電気料金抑制策」は絵に描いたモチか? “補助金”バラ撒きでは「値下げ」が難しい理由
岸田政権の命運を左右する「総合経済対策」の策定が急ピッチで進められている。「物価高や円安への対応」「賃上げ」などの柱が並ぶなか、“最大の目玉”とされるのが高騰する電気料金を抑制する激変緩和制度の創設だ。しかし漏れ伝わってくる内容からは、その実効性に早くも不安の声が上がり始めている。
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【写真】「値上がり分を半減させる」と宣言した萩生田政調会長と料金高騰に喘ぐ庶民
10月12日、岸田文雄首相は電力会社の社長らと意見交換し、「前例のない、思い切った負担緩和策を行いたい」と大見得を切った。10月初めには萩生田光一政調会長も「家庭では(電気料金が)2割上がっており、少なくともこの半分くらいに戻す必要がある」と述べ、政府が一丸となって“電気料金の値下げ”へ取り組む姿勢をアピールした。
9月の東京電力管内の標準世帯における家庭用電気料金は1年前に比べて2000円以上高い9126円。萩生田氏の言葉が実現すると最低1000円程度は安くなる計算で、多くの国民にとっては歓迎すべき事態だ。
「岸田政権内で支持率回復を狙う“起爆剤”と位置付けられる経済対策のなかでも、電気料金抑制は首相肝いりの政策とされます。一時は国民や企業へ直接、現金を給付する案も浮上しましたが、現在、最有力視されているのが電力会社に“値下げの原資”を支給して料金引き下げに繋げるスキームです」(全国紙政治部デスク)
今年1月から政府はガソリンなど燃油価格を抑える目的で石油元売り会社へ補助金を投入しており、電気料金でも同じ仕組みを活用する方向で話が進んでいるという。しかし自民党内の一部からは「タイミングの悪さ」を指摘する声も。
「7日に公表された財務省の予算執行調査で、支給された補助金の一部を販売価格抑制に反映させていないガソリンスタンドが2割超にのぼることが明らかになり、補助金方式の課題と限界が浮き彫りになったばかり。すでにガソリン価格抑制のために投じられた支出額は3兆円に達しており、費用対効果への視線はより厳しくなっている。だから岸田さんは“これは補助金じゃない”とイメージ修正に躍起となっているが、呼び名は何であろうと電力会社にカネをバラ撒く点は変わらない」(自民党関係者)
LNGは3倍、石炭は6倍の値上がり
岸田首相もその点は気にかけているようで、12日の電力トップとの会合でも「国からの巨額の支援金が電力会社への補助金ではなく、すべて国民の負担軽減に充てられることを明確に示す仕組み」を構築するため、「全国700社の電力小売り会社と協力」するとした。
小売り事業者の持つ料金請求システムを通じて契約者の負担軽減を図る方策が検討されているというが、コトはそう簡単でないと話すのはエネルギー政策に詳しい常葉大学の山本隆三名誉教授だ。
「たしかに現在、登録されている電力小売り会社は約700社ですが、これら小売り事業者に値下げ原資をバラ撒くのは現実的とは思えません。事業者数が膨大になり、補助金の使途の捕捉が困難になるためです。一方で再生可能エネルギーを除く発電事業者であれば数十社にまで絞られるので、支給対象は発電事業者のほうが妥当ではないか。問題は発電・小売りを問わず、いまや電力会社の大半が赤字に陥っている点です」
ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格は高騰を続け、昨年1月時点と比べると火力発電の燃料となるLNGの輸入価格は約3倍、石炭については6倍程度にまで値上がりしているという。原油価格も上昇しているが、石油の発電シェアは7~8%の低い水準にとどまるため、電力各社の経営を圧迫している主原因は発電の約4割を占めるLNGと約3割の石炭だ。
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