相棒 亀山薫時代の名作ベスト5 1位は寺脇康文がベストシーンに挙げたseason2の「白い罠」
いよいよ「相棒」のseason21がスタートする。水谷豊演じる杉下右京の5代目相棒となるのは寺脇康文が演じた初代相棒・亀山薫。コンビ復活を記念して関東地方では9月26日から午後の再放送で、“各界の相棒ファンが推薦する「右京×薫のイチオシエピソード”が放送された。だが、ファンからすれば抜けている作品もある。そこで今回は初代相棒・亀山薫時代の名作を厳選し、ベスト5形式で紹介したい。
【写真】14年ぶりの復帰となった、亀山薫(寺脇康文)との2ショット 歴代の相棒たちも
まず第5位はseason5の第11話(以下、S-5・11と略)「バベルの塔~史上最悪のカウントダウン!」である。「相棒」といえば元日夜に放送されるスペシャルが毎回注目されるが、亀山薫時代のものから1本選ぶとしたら本作に尽きる。
大晦日の夜、事件は衆議院議員の富永洋介(冨家規政)による年越しカウントダウンパーティが開催されているホテルで発生する。都市化再開発計画の急進派でもある富永は左翼過激派のテロ組織“赤いカナリア”のメンバーである梶に命を狙われており、右京と薫は小野田官房長(岸部一徳)に強引に連れられ、身辺警護も兼ねてパーティに参加することに。するとパーティ会場が大勢の人で賑わうなか、富永の私設ボディーガード兼婚約者でもある辰巳楓(大塚寧々)の1人娘・はるかの行方が分からなくなってしまう……。
はるかの失踪をきっかけに高級ホテルの最上階で籠城事件が発生。まるで劇場版を思わせる壮大なスケールで物語が二転三転していく。意外な真犯人の正体に予測不能の共犯者も登場、事件の動機(実につらくて切なかった)も含め、ドラマ終盤に見事などんでん返しが炸裂する点もポイントが高い。
この回の裏テーマは“家族愛”だった。最後にある人物がある人物に「ありがとう」と礼を述べる場面では号泣必至であることも付け加えておきたい。
第4位はS-2・3の「殺人晩餐会」だ。薫のある“能力”がクローズアップされた作である。右京と薫は右京の元妻の宮部たまき(益戸育江)と薫の恋人・奥寺美和子(鈴木砂羽)を連れて人里離れた場所にある高級フレンチレストランでディナーをしていた。しかし雨が強まり土砂崩れが発生、交通が遮断されてしまう。しかも山奥なので携帯も圏外に。そんななか、レストラン内で1人の男性客の刺殺体が発見される。お客は右京たちのほかに華道の家元関係者一行で、あとはシェフとギャルソンの2人のみ。陸の孤島となったレストランで発生した殺人事件に右京と薫が挑むこととなる……。
本格推理小説における典型的なシチュエーションの1つ“クローズドサークル”ものである。純粋に推理して犯人探しを楽しめるのだが、最も驚かされたのが凶器だった。その行方が分からず、誰が犯人かの決め手に欠けるなか、死体発見直前の薫の言動を思い出した右京は“冷凍されていたイカ”が凶器だと看破するのだ。というのも薫以外の3人は出されたイカ料理を絶賛したものの、薫だけは一口食べて「味がおかしい」と感じていたからだ。つまり凶器はすでに調理されてしまい、その一部を薫が食べてしまったというブラックなオチだったのである。右京に「君の舌はときに君自身よりも有能です」と褒められたことがあるほど、薫の味覚は鋭敏なのだが、その神の舌が事件解決に一役買った最も印象的なエピソードである。
サイコパス演技がインパクト大の回
第3位はS-4・8の「監禁」だ。右京のついた嘘のとばっちりを受けて薫が絶体絶命のピンチに陥ってしまう。
とある地下室で薫が手足を縛られ、監禁された状態から物語は始まった。その地下室には大きな金庫があり、中には4億円相当の金塊があるという。金庫を開けたい犯人によって薫は暗号解読を強要され、暗号を解かなければ殺されてしまう可能性が大であった。そのころ右京はお昼を過ぎても出勤してこず、携帯も繋がらない薫のことを訝っていた……。
薫を監禁した犯人・進藤ミサエを演じた佐藤江梨子のサイコパスな演技がとにかく怖く、インパクト大。金のためならなんでもする危険人物で、すでに解読に失敗した大学教授と歴史研究家の2人が犠牲になっていた。監禁された薫もかなり激しい暴行を受け、足に重傷を負ってしまう。
そもそもなぜ薫は監禁されてしまったのか? それは右京のついた“ささいな嘘”が原因で、ミサエは右京と薫を間違えてしまったのだ。それにミサエが気づいてしまったら、確実に殺される。そのため正体がバレそうになると薫は急に右京の口調で話し出すのだ。「その手には乗りません」や「東大にそんな教授はいません。違いますか?」など、思考回路も右京に寄せていく。絶体絶命のなか右京になりきり暗号を解こうする薫。薫に暗号を解かせようとあらゆる手段を講じるミサエ。この2人の駆け引きは必見である。
最後のオチも秀逸だ。詳細は省くが、右京が中学生時代に「亡霊たちの咆哮」という推理小説を書いていたことが発覚。しかも中学生が書いた傑作ミステリーとして大学の同人誌にも掲載されたほど、クオリティの高い作品だったようだ。
第2位はS-5・15の「裏切者」である。ごく普通の専業主婦が何者かに射殺された。凶器はモデルガンの改造銃で、銃弾の形などからかなりのマニアと思われた。右京と薫は過去の改造モデルガンによる発砲事件を調べ直し、マニアと思われる男をピックアップ。当時、この男を送検した池波署を訪れる。池波署の組織犯罪対策課には薫のかつての恩師で教育係だった北村武(金田明夫)がいた……。
事件発生のきっかけは池波署の行った不正だった。それを暴こうとする右京と、警察のメンツを守るためにもみ消そうとする上層部。そして問題に関わったとされる北村を信じたい薫。三者三様の思惑が交錯するなか、証拠の調書を預かっていた薫は北村の部下たちから暴行を受け、証拠の調書を奪われてしまう。
この回で最も印象的だったのはラストである。小野田官房長が薫の妻・美和子に「特命係は杉下が動かしているとばかり思ってました。しかし、実は君の旦那様だったんだねぇ。亀山、薫くん……」とひとことつぶやくのだ。右京にとって大事な相棒の薫が暴行されたことで、右京は覚悟を決めた。一計を案じ、真実を明らかにすることに成功する。同時にそれは危険な賭けでもあった。それが分かっているからこそのこのセリフ。ある意味、小野田が薫のことを“認めた”貴重な瞬間だったといえよう。
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