藤井聡太五冠に竜王戦第1局で完勝 広瀬章人八段の実像に迫る

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大学生初のタイトルホルダー

 4期ぶりの竜王位再奪取を目指す広瀬。一時の「群雄割拠」から藤井が飛び抜け、渡辺明二冠(38)、永瀬拓矢王座(30)、豊島将之九段(32)らが活躍したここ2年近くは少し沈んだ感があったが、A級在位9期の実力者が再浮上した。

 東京生まれの広瀬は、小学生時代を北海道・札幌で過ごした。同じ北海道出身で名人戦順位戦のA級に7期在籍した名棋士・勝浦修九段(76=引退)の門下で、早稲田大学教育学部に入学した05年春に奨励会四段となりプロ入りし、特段、早熟な棋士ではない。

 しかし、広瀬は急速に力をつけ、在学中の10年に深浦康市九段(50)から王位を奪い、「大学生初のタイトルホルダー」として話題になった。翌11年に王位は羽生善治九段(52)に奪われたが、18年には竜王戦の挑戦権を得て羽生からフルセット(4勝3敗)で竜王位を奪った。これで羽生のタイトル通算100期を阻止した上、羽生を27年ぶりの無冠に落とした「張本人」でもある。

 しかし翌19年、広瀬は豊島に竜王を奪われた。そして、渡辺にフルセットで敗れた19年の王将戦七番勝負の挑戦以来、しばらくタイトル戦に広瀬の姿はなかったが、今期は竜王戦の挑戦者決定戦三番勝負で山崎隆之八段(41)を下して、優勝賞金額最高額(4400万円)の久々の大舞台登場となった。

 以前は「四間飛車」を得意とする振り飛車党だったが、最近は羽生から竜王を奪った際に見せた居飛車が多い。

おやつはハロウィーンのスイーツ

 そんな広瀬は、ABEMAでの解説などでも、人の好さが滲み出ている。

 18年の公開対局「朝日杯将棋オープン」を取材した際、初めて対戦した藤井に敗れ、観客の前で大盤で対局を振り返るなどした広瀬は、藤井にマイクが回されると居心地が悪そうにしばらく壇上に立っていた。

 藤井への対応に夢中になってしまったのか、かなり経ってから気づいた司会者に「広瀬先生はここまでで……」と言われると、照れ笑いをして頭を掻きながらすごすごと退散する姿になんとも好感が持てた。大変な「照れ屋」でもある。

 早稲田大学では数学を専攻していたという広瀬。数学同様、高い精密度や緻密さが要求される将棋と毎日向き合うが、その人物は実におおらかだ。同世代の豊島も、広瀬について「鷹揚で優しい」と答えている。今回の対局で広瀬は、おやつにかぼちゃやオバケといったハロウィーンのデコレーションが付いたチーズケーキ、モンスターを模したモンブランなどを注文。「かわいいチョコを食べるのはもったいなかったですが、美味しくいただきました」とほほ笑んだ。

 藤井との対戦成績は1勝5敗だが、勝ったのは19年11月の王将戦決定者決定リーグの最終戦で、藤井の最年少タイトル挑戦をお預けにした一局だった。

 タイトル戦で藤井とぶつかるのは初めて。「勝負師」とはやや遠いイメージだが、終盤に相手玉を一突きで殺す槍は錆び付いてはいない。今年度の成績は11勝4敗と好調だ。

 大舞台で藤井を破って竜王位を奪還すれば、広瀬の株は一気に上がる。

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