令和初の三冠王「村上宗隆」対策には「命懸けの配球」がカギ 「平成の三冠王」を封じた西武黄金期の正捕手・伊東勤氏が明かす攻略法

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最強のメンタルには、最強のメンタルで対抗

 クライマックスシリーズを勝ち上がり、日本シリーズに進むと、他のリーグのチームと戦う。交流戦があるとはいえ、レギュラーシーズンでは対戦が少ないだけに、死球覚悟で攻めやすいはずだ。日本一が懸かっている試合なのだ。私は西武捕手時代、セ・リーグのチームの主力打者を迎えた時は「当てても仕方ない」という気持ちで内角に要求していた。

 ただ、村上は今季、中日が昨季に行ったような内角攻め程度では崩れなくなった。十分に内角への意識を植え付けたと思って外角に行くと、これを引っ張らずに左翼スタンドに持っていかれる。時に体勢を崩しながら逆方向にホームランする姿は、好調時の大谷翔平(エンゼルス)にも重なる。限られた打者にしかできない芸当だ。

 より強烈に内角を意識させるため、短期決戦では初戦の第1打席の第1球からバッターボックスのラインより、さらに内側を攻めることがバッテリーには求められる。あれだけメンタルが強い打者だから、バッテリーは負けじと強いメンタルで対抗するしかない。

松中には村上と違う凄み

「村上封じ」は内角攻めだけでは心もとない。私なら、もう一手間かける。
 
 西武監督1年目の2004年のことだった。パ・リーグでは2位だったが、同年からプレーオフが導入され、1位の王貞治監督率いるダイエー(現ソフトバンク)と日本シリーズ進出を懸け、第2ステージで戦うことになった。

 ダイエーの主砲は松中信彦内野手で、その年、平成初の三冠王に輝いた。松中を抑えない限り、日本シリーズには進めないと思っていた。

 松中は内角に滅法、強かった。ホームベースに覆いかぶさるように左打席のライン近くに立ち、投手に内角を投げにくくさせてもいた。そして、この立ち方で外角球を真ん中付近ぐらいの球にし、右翼や右中間に本塁打を放った。外角球でも引っ張る打撃は、外角球を逆らわずに左翼に運ぶ今季の村上とは違う凄みがあった。

 松中は、ロッテで三冠王3度の落合博満さんのように、相手投手のウイニングショットをスタンドに運ぶことを身上にしていた。松坂大輔投手はレギュラーシーズンで内角のカットボールを何度も痛打された。投手は最も得意とする球種だけに、精神的なショックはより大きくなる。本当にやっかいな打者だった。

 レギュラーシーズンでは打たれるのを覚悟で、松中得意の内角攻めを指示した。実際に松坂などはカモにされたのだが、西武の投手陣は遠慮もあり、なかなか内角を攻め切れていなかった。一方で細川亨ら捕手陣には「それでいいんだ」と責めることはなかった。決戦前、その方針に変更がないことを投手陣には強い言葉で伝えた。

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