「みんなちがってみんなクズ」な世界「闇金サイハラさん」 沈みゆく日本のリアル

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 暴力団対策法が施行されて30年以上も経つが、反社会的勢力を描くドラマは廃れない。介護ヘルパーになったり(「任侠ヘルパー」)、児童相談所の職員と入れ替わったり(「ドン★キホーテ」)、主夫になったり(「極主夫道」)。コメディーが多いのは、反社の皆さんをどうにか市井の人々になじませるためだ。私が一番好きなのは「闇金ウシジマくん」。闇金業者が主体で、その阿漕(あこぎ)な手法、冷酷無比な仕事っぷりを描くのだが、債務者側のどうしようもないクズっぷりももれなくセット。「反社だけど善人」なんて奇麗事のエクスキューズもないし、可哀想な債務者(被害者)に同情するかというとそうでもない、むしろ同情しがたい人物が山ほど登場するから。要は、みんなちがってみんなクズなのだが、金にまつわる人間の業と日本社会のひずみをまざまざと見せつけられる作品である。

 で、そのスピンオフというか新章となる「闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん」が始まった。ウシジマくんの宿敵で、同じ闇金業者の犀原茜が主人公。演じるのは高橋メアリージュン。愛をこめてMJと呼ぶ。

 ドラマ版ではシーズン3から、映画版ではパート2から登場したサブキャラだが、MJのたたずまいがすごくよい。白シャツに黒パンツ、左腕にはネクタイを巻いている(映画版ファイナルを観たら、恩人の遺品と判明)。取り立ては残忍極まりなく、肉挽き機に債務者の指を突っ込むなど情け容赦もない。

 文節を区切らず抑揚のない早口、キレると素っ頓狂に甲高い声で怒号を浴びせる、幼い頃のクセで見事な犬食い。情操教育を一切受けず、暴力の世界で生きてきたことがわかる。ちょっと不憫なヒロインなのだ。

 闇金といえど、反社の傘下。出世ライン(反社に出世もへったくれもないけれど)から外れたへっぽこヤクザ(ヘッドギアが似合う光石研)に、搾取され続けている理不尽さもある。

 MJはポリ袋に入れたゼリービーンズを持ち歩くのだが、緑色の洋梨味が大嫌い。烏龍茶に金を取る店も嫌い。アジフライは醤油派と、回を重ねるごとに見えてくる、些末だけど親近感ある特性も楽しみのひとつ。

 MJの右腕にマキタスポーツ、MJに搾取され続けるヤンキー夫婦(中尾明慶&木南晴夏)、カウカウファイナンスの皆さん(もはや可愛いやべきょうすけ&腹筋が美しい崎本大海)など、手堅いレギュラー陣が物語を継承。新加入はMJの手下となる役者志望の青年に宮世琉弥(みやせりゅうび)、MJを恨むヤクザに山内圭哉、ヤクザよりも自由で凶悪な半グレに野村周平とメンツも強烈。

 今回の債務者は東大卒で選民意識が強い会社員(勝村政信)や気の弱いオタク(岡崎体育)。ふたりとも半地下アイドルに熱をあげて闇金に手を出す。ただ、DV夫から逃げて風俗で働くシングルマザー(古畑星夏)だけは救いが必要と思わせる構図に。あ、そうそう、ドラマ全作に出てくる債務者・雨男(あまお)(平田実)も健在。

 暴力、犯罪、貧困、負の連鎖。いろいろな意味で眉をひそめる作品だが、これぞ沈みゆく日本の現実である。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年10月13日号掲載

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