【秘蔵映像初公開】ビートルズ日本公演の警備に、1万1000人の警察官が動員された本当の理由
「おまわりさんはいいわね」
作家の大佛次郎は朝日新聞(1966年7月4日夕刊)に「ビートルズを見た」というタイトルで寄稿している。
《司会者の開会のあいさつとともに、観客席の間にある階段と言う階段に警官がぞろぞろ降りて来て、通路をふさいだ。ドアをしめて人を入れない一階のホールでは、遠方から円陣を作って舞台を包囲して、おびただしい警官が壁を背に配置につく。私のうしろの高い席から、少女の声で叫ぶのが聞こえた。
「おまわりさんはいいわね。前に出られるんだから」。こいつはいかにもそのとおりで、少女らしく無邪気で正直な声である。事故さえ起こらなければ、若い警官を慰安するビートルズの演奏となるだろう。》
「海外アーティストの来日でこんな大がかりな警備を行ったのは、後にも先にもこの時だけです。これだけの警備を配置するのは、天皇陛下の大喪の礼か安倍元首相の国葬、アメリカ大統領が来日した時くらいでしょう。当時、武道の殿堂である武道館で公演をするというので、右翼団体の『亡国ビートルズ排撃』という横断幕をかけた街宣車が何台も武道館近くに来ていました。あれだけの警備を敷いたのは右翼対策と思われるかもしれませんが、実はその3年前に起きたケネディ大統領の暗殺事件が大きく影響しています」
ケネディ暗殺事件は世界に大きな衝撃を与えた。警視庁は、ビートルズのメンバーにもしものことがあれば国の威信にかかわると考えたようだ。
「警視庁は、ロンドンの日本大使館に問い合わせて、ビートルズに関する情報を収集しています。彼らを脅迫したりする人物はいないか、イギリスの警察に調べてもらったのです」
さらに、警視庁公安部もかなりの捜査員を導入したという。
「日本にいくつかあったビートルズのファンクラブを調べ上げました。幹部の中に怪しい者はいないかなど、念入りに調べたそうです」
ビートルズの日本でのスケジュールは、分刻みで決められていた。
「後にビートルズのメンバーであるリンゴ・スターが日本の警備について語っていました。分刻みで移動させられた、それが面白くなかったので、わざと決められた時間にホテルの部屋から出なかったこともあったと。当時のビートルズファンの熱狂ぶりはすさまじいものがあったので、警視庁も絶対にトラブルを起こさないよう、細かく時間を区切ったのでしょう。最後に言わせていただくと、警視庁が今回公開した映像は、モノクロで音声は入っていません。この点だけは残念です」