熾烈な競争、出世コースからの脱落… メガバンクの実態を描いた書籍、なぜ人気?
昨年の2月28日、M銀行みなとみらい支店の目黒冬弥課長に、副支店長から緊急連絡が入る。
「ATMが使えず、お客さんがあちこちで大騒ぎしてるらしいんですよ」
急いで支店に向かった目黒氏は、機械の使用中止を呼び掛けるポスターをATMに貼って回った。復旧はいつになるのか分からない。
『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ刊)は、こんな場面から始まる。プロフィールによると、著者の目黒氏はバブルの終わりごろ大手都市銀行に入行。法人営業などを経て窓口事務の管理者としてメガバンクM銀行に勤務する現役行員とある。担当編集者によると、
「発売後、すぐに重版がかかり、合計2万7千部になりました。この手の本としては、とても速いペースで売れています」
M銀行がどこかは察しがつく。冒頭の場面の当日は、実際にみずほ銀行で大きなATM障害が起きたからだ。また、2002年4月と11年に起きたシステム障害のことも詳しく描かれている。だが、本書はシステム障害の原因を究明するのが主題ではない。
みずほ銀行の答えは
どの会社にも言えることだが、メガバンクはとりわけ上司との相性が大事だという。そして、熾烈(しれつ)な競争に勝った者に肩書と高い報酬が待っている。目黒氏も上司との折り合いに苦労しながら課長に昇進。一時、年収は1250万円に達した。ところが、ある日、思わぬ辞令を受ける。営業職から下町の支店の預金担当に回されたのだ。何が悪かったのか身に覚えはなかったが、辞令は出世コースからの脱落を意味した。それでも目黒氏はやがて顧客とのつながりに喜びを見出すようになる。詳しくは本書を読んでいただくとして、執筆の意図を目黒氏が明かす。
「ネットバンクが始まったとき、必ず失敗するとメガバンクは見ていました。しかし、いまメガバンクはその猿まねをしています。銀行の窓口業務はいずれ必要でなくなり、支店もさらに減ってゆくでしょう。そんな時代の流れに翻弄されながら、組織の不条理に抗い、それでも人のつながりに拘り続けた時代遅れな男の話だと思って読んでください」
さて、みずほ銀行に聞くと、
「当該書籍については認識しておりますが、当行が取材協力した事実はございません。当該書籍に関するコメントは差し控えさせていただきます」(広報室)
同行の従業員は約2万6千人。本が売れている理由が何となく分かった。