お笑い芸人のファンクラブビジネスは今どうなっているのか

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ファンクラブ注力の背景

 ここへ来て吉本興業が本格的にファンクラブビジネスに乗り出したのには、いくつかの理由が考えられる。1つは、コロナ禍の影響でライブが減っていたことだ。芸人の本業は、舞台の上で観客を前にして芸を見せることだ。ファンはライブに足を運ぶことで芸人を見ることができた。また、出待ちをして直接声を届けたり、交流をしたりすることもできた。

 だが、コロナ禍の影響でライブが減り、ファンが芸人に直接触れられる機会が激減してしまった。だからこそ、ファンが芸人と直接つながるためのサービスが双方に求められるようになった。

 ファンというのは、自分の好きなものに関するお金の使いみちを探しているようなところがある。ほかのジャンルに比べると、お笑いというのは追いかけるためのコストが低い。ライブの入場料は音楽や演劇ほど高くないことが多いし、テレビやYouTubeのコンテンツは無料で見られる。特定の芸人を追いかけている人にとっては、会費を支払ってファンクラブに入るというのは有力な選択肢となる。

 お笑いがライブビジネスだった時代は終わり、いまやコンテンツビジネスの時代になった。芸人の側も、ライブに限らずYouTubeなどいろいろなことをやっていくのが当たり前になってきている。その中の1つとして、ファンクラブやオンラインサロンという形のサービスが始まるのは自然なことだ。

 このような月額課金制のビジネスは、軌道に乗ると一定の収入が得られるというメリットもある。浮き沈みの激しいお笑いの世界では、安定した収入があるというのは大きい。

 もちろん、月額制のサービスで会員を満足させるというのは簡単なことではない。人気のある芸人はテレビで活躍しているし、YouTubeのコンテンツも豊富にあるため、「お笑いはタダで見るもの」という世間の意識も根強い。キャラクターとして魅力がある芸人や、特定の分野に強みがある芸人でなければ、月額制のサービスは成り立たない。

 お笑い業界は、ほかのエンタメに比べるとファンクラブ型のビジネスが遅れているようなところがあった。業界最大手の吉本興業がそこに本格参入したという事実は興味深い。これらが軌道に乗れば、ほかの事務所でも続々とそのようなサービスが始まるかもしれない。

 SNSやYouTubeが存在する今でも、ファンクラブという形式で熱心なファンに向けて情報やサービスを提供することには、大きな意義があるのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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