24年の大河ドラマは紫式部の生涯を描く「光る君へ」 合戦シーンがないので製作費を節約できる?

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「ジェンダーフリー」への配慮

 次に、なぜ紫式部なのか。これは主人公が男性に偏らないようにバランスが考えられたという点が大きい。視聴者のうち約半分は女性で、しかもジェンダーフリーが当たり前の時代なのだから、男性が主人公の大河ばかりつくるわけにはいかない。

 近年の大河は10年のうち3~4本の割合で女性が主人公。2000年代は(1)2002年の「利家とまつ~加賀百万石物語~」(前田利家役の唐沢寿明とまつ役の松嶋菜々子のダブル主演)、(2)2006年の「功名が辻」(千代役の仲間由紀恵と前田利家役の上川隆也のダブル主演)、(3)2008年の「篤姫」(篤姫役の宮崎あおいが主演)である。

 2010年代は(1)2011年の「江~姫たちの戦国~」(徳川秀忠の正室・江役の上野樹里が主演)、(2)2013年の「八重の桜」(新島八重役の綾瀬はるかが主演)、(3)2015年の「花燃ゆ」(吉田松陰の妹・杉文役の井上真央が主演)、(4)2017年の「おんな城主 直虎」(井伊直虎役の柴咲コウが主演)だった。

 ところが、2020年代は「麒麟がくる」「青天を衝け」「鎌倉殿の13人」と続き、来年の2023年は嵐の松本潤(38)が徳川家康役で主演する「どうする家康」だから、女性主人公がいなかった。

 このため、2024年の主人公が、歴史上の大物でありながら、過去に大河で描かれたことのない紫式部に決まったのは極めて順当だった。

 それでも2020年代は女性主人公は少ない。「光る君へ」に次ぐ2025年の大河も女性が主人公になる可能性があるのではないか。

 紫式部は平安時代中期の11世紀初めに長編フィクション「源氏物語」を書いた。光源氏を主人公とするこの物語は現代語版が今も読み継がれる名著。けれど紫式部の生涯にはナゾが多く、生没年すら分からない。創作の余地がある分、史実に縛られずに済み、脚色しやすい。大河の主人公向きと言える。

 あの時代の最高権力者となる藤原道長と関係が近かった点も大河の主人公にうってつけ。紫式部の目を通して平安貴族社会や当時の政治が描ける。ドラマの幅が広げられる。

吉高起用も順当

 吉高が主演に据えられたのもまた順当に違いない。2014年度上期の連続テレビ小説「花子とアン」でヒロインを務め、NHKドラマの流儀を知っている。「篤姫」に島津忠教の娘・於哲役で出演し、大河も経験済み。

 なにより、TBS「わたし、定時で帰ります。」(2019年)や同「最愛」(2021年)など吉高の出演ドラマが評判高いことが大きい。NHKドラマの大半は質を最重要視しているものの、大河と朝ドラに限ると視聴率も強く意識している。

 脚本を大石静さん(70)が書くのも納得だ。大石さんはNHK連続テレビ小説「オードリー」(2000年度下期)、日本テレビ「家売るオンナ」(2016年)など数々のヒット作を手掛けてきた。三谷幸喜氏(60)が大河3作目となる「鎌倉殿の13人」を書いているように、近年の大河は脚本家の人選が手堅い。冒険しない。

 大石さんは「功名が辻」で大河も経験済み。やはり当てている。また日本テレビ「知らなくていいコト」(2020年)で吉高と組んでいるから、彼女の女優としての持ち味を知っている。

 スタッフは合戦シーンがなくても面白く出来ると自信満々に違いない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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