不倫相手の“みそ汁事件”で全てがバレて… 夫は東出昌大と同じ心境で人生を終えたのか
思わぬ暁美さんの熱情
ただ、想定外だったのは、彼女の熱情だった。関係をもって数ヶ月たつうち、彼女は「離婚して一緒になりたい」ともらすようになったのだ。気持ちは同じだけど、時機を待とうと彼は言った。
「そうすると彼女は『そうよね、わかってる』と素直に微笑むんです。その顔がまたせつなくて……。僕はこれほど他人から求められたことがあっただろうかと考えてしまいました。こんなに求めてくれる女性の気持ちを無碍にはできない、彼女を幸せにすることが僕のこれからの役割なのではないか、もう子どもたちも成人したことだし、今、離婚してもなんとかなるのではないか。そんなふうにも考えていました」
そこから3年、彼の気持ちは徐々に、そして確実に、離婚して暁美さんと一緒になる方向に傾いていった。
ところがそんな彼の気持ちをぶち壊すようなできごとが起こる。彼自身は、暁美さんとの交際が3年間、順調だったというが、暁美さんにとってはそうではなかったのだ。彼女の熱情は、ずっとため込まれたままだった。
妻が語る「事件」
じつは勇蔵さんを取材するにあたっては、彼の妻で佳穂里さんの母、裕香さんからも話を聞いていた。ここからは彼女の証言を紹介したほうが、より分かりやすいだろう。
「私は夫を信頼して、家庭を切り盛りしてきました。子どもたちが小学校に入ってからはパートで仕事もしてきた。夫は『家庭に支障がないように働いてほしい』と言っていましたが、子どもたちにお金がかかる時期、よくあんな偉そうなことを言ったものだと思います。反論するのもめんどうだったからしませんでしたけど。夫は結局、自分が外で働いて帰ってきて、ちゃんとご飯ができていて、いつもきれいに洗濯物が引き出しにあるのが当たり前だと思っていたんでしょう。妻を家政婦のように思っているんじゃないかと言ったことがあります。そうしたら夫はきょとんとして『主婦には主婦のプライドがあるはずだろ』って。意味がわかりませんでしたが、今思えば、愛情に裏打ちされた家事育児の担い手なのだと言いたかったのかもしれません。それならそれなりにいたわりやねぎらいの言葉があってもよかったのに」
夫への思いは複雑だという。従来の妻・母役割を押しつけられたことへの反発はあるが、母としては娘ふたりを育てるのは楽しくもあった。ただ、夫婦としてのこまやかな愛情はお互いになかったかもしれないと感じている。夫婦はそんなものと思い込んでいた自分自身にも忸怩たる思いはあるそうだ。
「私は夫が不倫しているなんて思ってもみなかった。ただ、ある日、パートから帰って家に入ると、なんだか様子がおかしいんですよね。着替えようと寝室に入ると、窓が開けっぱなしになっていて女が夫のベッドに横たわっていた。『あんた、誰?』と叫ぶと、彼女は黙って起き上がって『本来なら、私がここで勇蔵さんと寝ているはずなんですよね』とつぶやきながら出て行った。ちょっと待って、あなた誰よと声をかけると、振り向いた彼女の目がちょっと危なくて……。そのまま彼女は、サンダルを手に裸足で出ていった。夏だったんですが、彼女の足の白さが目に焼きついています」
警察に連絡しようとして、彼女はお金の入っている引き出しを調べた。だが金は取られていなかった。ただ、キッチンに、作ったばかりの味噌汁の鍋があった。具は彼女が買ってきたのだろうか、豆腐とわかめだった。
「夫の好きな具なんですよ。それで警察よりまず夫だ、と。連絡したら彼はすぐに飛んで帰ってきました。そこで好きな女性ができたと白状されたんです。彼女の外見を聞いて、ああ、その人だと思いました」
何が暁美さんを動かしたのだろうか。やはりため込んでいた“熱情”がキャパシティを越えてあふれ出したのではないだろうか。勇蔵さんはいずれ一緒になる気はあったようだが、きちんと言葉にしては伝えていなかった。「いつか」という言葉に彼女の我慢が限界を超えてしまったのかもしれない。自分でも何がしたかったのかわからないのだろう。人が一瞬、常識を越える瞬間というのはあるのだと思う。
裕香さんにしてみれば夫が不倫をしていたこともショックだったが、相手の家に平然と入り込むような女性を夫が好きになったことのほうが衝撃が強かった。
「あのとき私が夫に抱いていた信頼がすべて崩れ去りました。会社の合併のこと? 話は聞きました。でも仕事のことに私があれこれ口を出してはいけない。そう思ったから何も言わなかったんです。給料が下がるかどうかは現実問題。それを聞くのは、生活をともにしている以上、当然のことじゃないですか? そのことが寂しくて女に走ったなんて、ましてあんな危ない女に走ったなんて、なんの言い訳にもならないと思うけど」
裕香さんは呆れたようにそう言った。確かに妻としての気持ちはよくわかる。
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