不倫相手の“みそ汁事件”で全てがバレて… 夫は東出昌大と同じ心境で人生を終えたのか

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仕事にまい進した30代、40代

 勇蔵さんは都内の“ごく普通のサラリーマン家庭”に、3人きょうだいの長男として生まれ育った。下には妹と弟がいる。父は頑固だが情にもろいところもある昭和の男で、母はそんな父を手のひらで転がすような“昔ながらのデキた主婦”だったという。

 大学を出て、とある企業に就職し、28歳のとき友人の紹介で出会った裕香さんと結婚、佳穂里さんが生まれた。3年後に次女が誕生、4人家族となった。30代でマイホームを購入し、ごくまじめに働いてきたという。

「仕事がおもしろいとかつまらないとか考えたことはなかったですね。ただ働くしかなかった。出張も多かったし、娘たちが小さいころは家庭のことは妻任せでしたね。佳穂里は小学校に入ってから野球に興味をもつようになって自分でも始めました。僕もかつて野球をやっていたので、佳穂里とはよくキャッチボールをしたのを覚えています」

 40代は仕事もピークだったと彼は振り返る。いちばん仕事が忙しかった時期で、挫折も大きな喜びも味わった。同僚や部下たちとの関係も濃厚で、「古い会社の体質を少し変えることもできたし、みんなで業績アップにも貢献した。今思えば、あのころは楽しかった」と言う。

 異変が起きたのは50代に入って数年たったころだ。会社が同業他社と合併したのだ。勇蔵さんは「合併というより吸収という感覚でしたね」と苦い表情になった。早期退職が募集され、勇蔵さんの同期も何人かがやめていった。だが愛社精神が強い彼は辞めようとは思わなかった。

「新体制でもバリバリ働くぞと思っていたのに、実際にはなんとなく居心地の悪い場所に追いやられた。中枢からは完全に外れた部署でした。気づくと、もと僕がいた会社側の人数は激減していた。慕っていた上司も合併後に追い出されるように子会社に移っていった。あのころは毎日、鬱々としていました」

妻は自分の気持ちに寄り添ってはくれない

 そんなとき派遣社員の暁美さんが部署にやってきた。なんとかもう一花咲かせたいと思っていた勇蔵さんは、そんな思いを暁美さんに話すようになっていく。

「彼女、真摯に話を聞いてくれました。派遣社員だから何もできないけど、井上さんがもう一花というなら、私も応援しますと言ってくれて。自分たちが何かできないかというのは、元の会社の仲間たちとも話していたんです。彼女は合併した会社の人たちとも少しずつ仲良くなっていって、いろいろあちら側の話も仕入れてきてくれました。反逆しようとか謀反だとか、そういうことではなかった。僕が元々所属していたA社と合併先のB社、社員の間の溝もなかなか埋まらなかったし、だったらA社の元社員たちで、新たに仕事を開拓してもいいんじゃないか、と。元A社の社員たちの多くは冷や飯を食わされていたこともあって、みんな何かしたいと思っていたんですよね」

 暁美さんはそんな勇蔵さんたちの思いを受け取り、元B社の社員と仲良くなって、幹部たちの情報も流してくれたのだ。機密情報はなかったが、誰のところに企画をもっていけば話を聞いてくれるかということは目星がついていった。

 その過程で、勇蔵さんは暁美さんと親しくなっていく。

「絶望の淵に立たされているような感覚が強かったので、暁美の存在が救いだった。妻には会社が合併したことは言いましたが、あまり興味をもってはくれなかった。妻の最初の一言は『給料、下がったら困るわ』だった。当時、次女がまだ学生でしたし、家のローンも残っていましたから、気持ちはわかるけど……。ちょっと寂しかったですね」

 妻は自分の気持ちに寄り添ってはくれない。彼がそう感じた瞬間だった。その寂しさが、彼を暁美さんに近づけたとも言えるかもしれない。

「暁美は8歳年下で、当時40代半ば。大学生になる息子は遠方にいるので夫とふたり暮らしだと聞いていました。『でも、夫とは気持ちが通い合わないの』という一言を聞いて、うちと同じだと思いました。そこから急速に心が近づいた気がします」

 いつのまにか彼の心の中に、暁美さんの存在がしっかりと根づいていった。好きだという気持ちに歯止めがかからなくなっていく。

「どうしたらいいかわからない、とある日、彼女と食事をしながら告げました。何がと言われたので、『あなたのことを好きになりすぎている』と。すると彼女、目を潤ませて『うれしい。私も同じです』って。食事を中断してタクシーを飛ばしてホテルへ行きました。もう我慢の限界だった。彼女のすべてがほしい。そう思った」

 心が近づけば体もひとつになりたい。シンプルにそう思った。プラトニックで満足なんてできるわけがない、と彼は少し強い口調で言った。

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