健康長寿のカギは「選択」にあり 「生活習慣改善法」と医療の新常識「SDM」を専門家が解説

ドクター新潮 ライフ

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エビデンスと人間の性

「医者の不養生」と言います。自身が肥満や喫煙といった生活習慣上の懸案を抱えている医師がいたとしても、より高度で専門的な医学論文を読むのに没頭することで「自らの懸案」から目をそらしているというケースが少なくありません。一般の人よりも医学知識がある医師であっても、より良き選択をし、そしてそれを継続するために重い腰を上げるのは容易ではないのです。

 では、健康長寿を阻害する生活習慣病をもたらす習慣(=選択の積み重ね)を見直すにあたって大切なこととは何でしょうか。私は2点挙げたいと思います。

 まずひとつは「エビデンス」です。塩分の取り過ぎは血圧上昇を招く、といったような医学的に正しいエビデンスを知らなければ選択のしようがありません。

 しかし、エビデンスを理解できているだけでは、残念ながらより良き選択をすることは難しいと言わざるを得ません。それがふたつ目のポイントで、人は易きに流れるという「人間の性(さが)」を率直に受け止めることが重要になってきます。

 喫煙は健康を損ねる。このエビデンスを知識として理解できていても、それと禁煙を実践できるかは全く別次元の話です。したがって、知識としてエビデンスを知っているだけではダメで、実践へのハードルは決して低くはないということを踏まえていなければ、その知識は画餅(がべい)となってしまうわけです。

毎回選択するのではなく「習慣」にする

 以上の2点、「エビデンス」と「人間の性」を十分に理解した上で、健康寿命を延ばす選択を積み重ねていくにはどうすればいいのでしょうか。

 先ほども述べたように、日々、私たちは意識的かはともかく絶えず選択を迫られています。今日はご飯にするかパンにするか、駅まで自転車で行くか歩いて行くか――日常に存在するそうした無数の選択を、ひとつずつ吟味するということは現実的には無理でしょう。その都度、真剣に頭をひねっていたら疲弊してしまいますし、仕事についてなど他に考えるべきこともたくさんある。

 したがって、私が推奨するのは、そのような「細々とした選択」を毎回行うのではなく、「習慣付けるという選択」をすることです。以下、具体的に私自身の例で説明したいと思います。

 健康のためには体を動かしたほうがいい。当然、医師である私もこのエビデンスは理解しています。しかし常にそれを意識し、今日はいつ、どれくらい運動しようかなどと考えていたら疲れてしまう。そこで私は、「朝ご飯を食べる前に30分運動するという選択」をしました。あるいは、「基本的には肉ではなく魚をメインディッシュにする」といったデフォルト(初期設定、標準)を選択する。

 このように、常にAかBかを選択する緊張を自らに強いるのではなく、限られた時間の中で自分に対してどういう習慣付けをするかを選択する。それはつまるところ行動変容です。

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