世界ランキングに入りたい「リブゴルフ」 切羽詰まったノーマンは奇策が成功し大喜びしたが

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ランキングは下降

 ところが、翌6日、OWGRから「待った」がかかった。

 突然、MENAツアーから「これらもMENAツアーの大会になりました」という形で提示されたリブゴルフの第6戦と第7戦を、正式にMENAツアーの大会として認定して世界ランキングのポイントを付与して良いものかどうか。それを審議して決定するためには「それなりの時間が必要」として、OWGRは今週と来週のリブゴルフの大会には世界ランキングのポイントを授けないことを発表したのだ。

 ノーマンやリブゴルフ選手たちの前日の喜びは、一夜明ければ「ぬか喜び」と化した。

 それでもノーマンらには「はい、そうですか」と諦めるわけにはいかない事情がある。世界ランキングの対象ツアーとして認められていないリブゴルフへ移籍した選手たちの世界ランキングは、今、下降の一途だ。

 2021年のはじめに3位だったダスティン・ジョンソンは23位まで後退。ブルックス・ケプカは16位から32位へ、ルイ・ウーストハイゼンも10位から34位へ、ブライソン・デシャンボーは5位から48位まで落ちており(以上、10月3日現在)、このままいけばトップ50圏外になるのは時間の問題だ。

 トップ50をクリアできなければ、来年のメジャー大会に出場できなくなる。それだけは何がなんでも避けたいと考えているノーマンとリブゴルフの選手たちは、強い焦燥感に駆られている。

喜んだのはMENAだけ?

 OWGRが世界ランキングのポイントをリブゴルフに付与することをなかなか認めない背景には、OWGRの意思を決定する理事会に、リブゴルフと敵対するPGAツアーのジェイ・モナハン会長やDPワールドツアーのキース・ペリー会長、さらにはメジャー大会の主催団体の会長らがいることが大いに関係していると見られている。

 そんな日々の下、ミケルソンは「OWGRは信頼性が何より大切。意思決定に政治を持ち込まないところがOWGRの信頼性を支えているはずだ」と暗にプレッシャーをかけ、ジョンソンも「OWGRはバイアス(偏見)のかかった機関になるべきではない。リブゴルフの選手たちは世界ランキングのポイントをもらうに値する選手ばかりだ」と強調した。

 それでもOWGRからのリアクションが見られない中、しびれを切らしたリブゴルフが見出した究極の打開策が、MENAツアーとの提携だった。

 しかし、それらはあくまでもリブゴルフ側の都合である。OWGRにしてみれば、世界ランキングの対象ツアーとはいえ、1つのツアーが新たに作った大会に無条件に世界ランキングのポイントを与えることなどできず、「申請内容を精査するための時間が必要だ」と言って「待った」をかけたのは至極当然である。

「それならば、あとどのぐらいの時間が必要なんだ?」と問い返したノーマンは、「どんなに遅くとも2023年シーズンの開幕前までには認めてほしい」と強く求めている。

 だが、モナハン会長やペリー会長らが、それをやすやすと認めるとは考えにくく、未曾有の奇策を考え出したとはいえ、リブゴルフが世界ランキングのポイントを得るまでの道程は、まだまだ長くなりそうである。

 一方で、降って湧いたようなリブゴルフとの提携で突然、懐が膨らんだと見られるMENAツアーは、一夜明けた今も笑いが止まらないはずだ。

「MENA」は「ミドル・イースト&ノース・アフリカ(Middle East & North Africa)」の頭文字。賞金総額75000ドル(約1000万円)ほどの小さな大会の開催がやっとだったMENAツアーは、ここ2年間はコロナ禍の影響で休眠状態だった。

 そこに数百万ドル(数億円)の支度金がリブゴルフから投入され、今後もサポートが約束されたMENAツアーは、「ホント、ゴルフって何が起こるかわからない」と思っているのではないだろうか。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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