卓球・平野早矢香が明かす五輪銀メダル秘話 敵を欺いた“前夜の賭け”(小林信也)
雀鬼・桜井章一
準決勝が始まった。団体シングルス初戦、福原が女子シングルスで銅メダルに輝いたフォン・ティエンウェイに勝った。勢いをもらった石川も王越古をストレートで下したあと1勝でメダルが決まる。その大会ではシングルス2試合の後、3戦目以降のオーダーを交換するルールだった。
「ダブルスのオーダー交換をした時、相手の二人がパッと私たちを見ました。『えっ!』という顔でした。でもこっちだってギリギリの変更で、吉と出るか凶と出るかわからない勝負でした」
1ゲーム目、平野・石川のフォア攻め戦術は面白いように当たった。11対3で圧勝。しかし2ゲーム目に入ると苦しい勝負になった。
「ゲームが変わると相手が変わります。最初は王越古のボールを佳純が受けていた。2ゲーム目、リ・ジャウェイのボールを佳純が受けるパターンだったが、なかなかうまくかみ合わなかった。そこでフォアミドルとかコース取りを修正したりボールを緩くしたりして、何とかデュースで勝ちました」
再び組み合わせが戻った第3ゲームは11対4。日本女子は初のメダルを決めた。決勝では中国に敗れたが、見事な銀メダルだった。
取材の終わりに平野が笑いながら言った。
「オリンピックでメダルを獲るため、私は勝つためにできることは何でもやりました」。そして、麻雀界で無敗を誇る伝説の男の名を挙げた。「雀鬼・桜井章一さんにも手紙を書いて、会いに行きました」
無邪気に笑う平野の穏やかな表情と、「鬼の形相」とも呼ばれたあの頃の平野のまなざしの違いに混乱し、胸を突かれた。
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