卓球・平野早矢香が明かす五輪銀メダル秘話 敵を欺いた“前夜の賭け”(小林信也)
徹底してフォアを
前日までダブルスは福原・石川ペアと決まっていた。ところが前夜、村上から平野に電話があった。
「平野」、村上が言った。「ダブルス、石川・平野でどうだ」「もっと早く言ってくださいよ!」
平野は本音と不安を伝えた。話し合いの末、そのダブルスへの変更を承諾した。
「試合までの時間、今自分にできる最大限の準備をして臨まなければ」
頭を切り替えた。約1カ月間、シンガポール戦は福原・石川で戦う予定で練習を重ねた。相手もそれを想定しているはず。村上はあえて想定外の選択に賭けた。
「佳純と私のダブルスも練習はしていました。でも韓国が来た場合に備えてのカットマン対策でした。シンガポールはおそらくリ・ジャウェイと王越古(ワンユエグ)。二人とも右の攻撃マン。攻撃型相手の練習はしていませんでした」
すぐに選手村の部屋で石川と一緒にDVDを見た。
「フォアですよね」
19歳の石川がすぐに言った。思いは同じだ、平野は確信を抱いた。日本はダブルスで有利とされる右(平野)と左(石川)のペアだ。相手は右と右。
「相手のフォアを徹底して突こう。右利きの選手を重ねて、下げる。それが戦術の軸でした。佳純と考えが一致した。フォア側に大きく持って行って相手を下げちゃえば有利に戦える」
フォアを突かれて守勢に回った相手は、苦し紛れにクロスで返す確率が高くなる。つまり、平野・石川は、相手のボールが右角に来ることを想定して次の攻撃を準備できるのだ。
夜が明けて試合当日、体育館に行くとシンガポールの選手が先に練習していた。
「ダブルスは、愛ちゃんと私のペアを想定した練習相手を用意していた。私たちはシングルスの練習とかを先にして、向こうが帰ってから、ダブルスの練習をしました」
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