「学生の自分にも徴兵令状」「出国がうまくいくか…」 市民の戦争動員、ロシア国民の本音を調査
「航空券を買えず、泣くしかない」
誰が徴兵されるか皆目わからず、動員令が出された9月21日には「新婚の女性が丸一日泣いていた」という話も聞こえてくる。35歳の内科医の女性が言う。
「外科医の主人は徴兵経験があり、医師として軍関係の仕事もしたので、対象に完全に合致します。でも行ってほしくない。ロシアは医師の給料が安いので、高い外国行き航空券も買えず、不安を抱えて泣いているしかありません」
独立系メディアによると、各地で起きているデモがこれまでと違うのは、逮捕者は女性のほうが多い点だという。男がデモに参加すると、捕まってそのまま前線に送られるので、女性がデモに参加しているそうだ。
それにしても、なぜここで動員令なのか。拓殖大学海外事情研究所教授の名越健郎氏が説明する。
「動員令は9月20日に実施を発表した、ウクライナ南部東部4州でロシアへの編入の是非を問う住民投票とセット。しかし、16日の会見でプーチン大統領は“動員令は急いでいない”と悠長に構えていた。3~4日で変化したのはロシアの独立系メディアによれば、クレムリン内で戦争党と平和党の路線争いがあり、全面抗戦すべきだという戦争党の意見にプーチンが同調したからだとのことです。9月に入り、北東部ハルキウ州のほぼ全域を奪還されたことが背景にあります」
さびついた銃を支給される予備兵も
防衛研究所政策研究部長の兵頭慎治氏は、9月21日のプーチン氏の演説に、三つのポイントを指摘する。
「動員で兵力を拡充し、4州を編入して“自国領”とみなし、そこをウクライナ軍が奪還しようとすれば核使用も含めてあらゆる自衛措置をとる、という三つのパッケージです」
次に、今回動員される予備役の配置先だが、
「軍務経験がない人に召集令状が届いているようなので、前線の戦闘地域に送ることは考えにくい。私が想定しているのは、ロシアに“編入”された4州で“国境”の警備や防衛にあたることです。そうすることで、いままで国境の警備や防衛任務に就いていた契約兵を、より前線に投入し、兵力を補充するのではないか。しかし、彼らに戦闘能力がないことを考えると、30万人で足りるのか、という問題になる。さらに動員数を増やそうということになりかねず、ロシア国内ではそれを心配し、動揺や反発が高まっているのでしょう」
ところで、ロシアはこれまでどれだけの兵力を投入してきたのだろうか。
「欧米諸国の分析では、ロシア軍は最大19万人の兵力で、7万~8万人が死傷して戦闘不能とされています。つまり、半分近くが兵力として機能していません」
動員された人の配備先について、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、
「予備役兵は高度な訓練を受けていないので、基本的に歩兵になり、前線での防衛あるいは後方の補給路の守備に投入されることが多いと考えられます。補給路は奇襲攻撃に脆弱で、兵を配置していないと守れません。しかしロシア軍は武器も不足がちで、予備兵にはさびついた銃なども支給されています。これでは捨て石のようになってしまう」
どこに配備されても、これほど死傷率が高い戦場である。自分や家族が送られるとなれば、誰でも恐怖に苛まれるに違いない。
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