スティーブ・ジョブズが愛した京都「俵屋旅館」 部屋係が残したメモの中身「旦那様、筍大好き、あわふ田楽はまったくダメ」
〈パーフェクト!!〉な献立は?
「ジョブズさんは、厳格なベジタリアンでいらっしゃいましたから、出汁も昆布や椎茸などだけで特別に作ったはず」と、佐藤社長は説明する。
記録からは、好き嫌いがはっきりしたジョブズの食の様子がうかがえる。日によっては、夕食が〈サラダ、お漬物、オレンジジュース、野菜スープ〉のみだったこともあり、部屋係としてはひと時も気が抜けなかっただろう。
そんな部屋係が〈ほとんどお召し上がり! パーフェクト!!〉と、こちらにも嬉しさが伝わる、踊るような文字で書き込んだ夕餉(ゆうげ)がある。
〈4日目
先附 筍、お多福、わらび、ふき、東寺焼、花びら百合根
小吸物 もずく、うすぐず
向附 刺身湯波
煮物 信州蒸し、ねぎ、磯辺おろし、三葉、わさび
焼物 鱒、茄子焼きびたし、きぬさや
温物 若竹煮
強肴 豆苗(トウミョウ)、切り胡麻
水物 びわ、キウイ〉
ベジタリアンのジョブズも、極上の料理で名高い俵屋の鱒料理は食べつくしたようだ。
ほかに〈旦那様、にんじん、アボカドのサラダBig size!〉や〈ポテト、揚げ物ダメ!!〉など、思わず笑いがこみあげるメモも見られる。「食は人なり」といわれるが、記録からは一食たりとも妥協しない完璧主義者、ジョブズの人柄が伝わってきた。得がたい記録を提供してくれた俵屋旅館に深謝したい。
「芸術新潮」(2022年10月号)では、特集記事「風狂、スティーブ・ジョブズが愛した日本」を掲載している。
(一部、敬称略)
柳田由紀子(やなぎだ・ゆきこ)
アメリカ在住ライター。1963年、東京生まれ。日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した評伝『宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧』が9月16日に集英社文庫より刊行。訳書に『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』(集英社インターナショナル)ほか。