迫るインフルとコロナ「同時流行」の危機、専門家に聞く「重症化」「死亡」リスクはどうなる?
季節性インフルエンザと新型コロナが今年の冬、同時に流行する「ツインデミック(同時流行)」への警戒が高まっている。その可能性や罹患の実態、対策を専門家に聞いた。
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10月3日、岸田文雄首相は所信表明演説で「インフルエンザと新型コロナが同時流行したときの備えが重要となる」と述べ、ワクチン接種の加速や医療提供体制の強化を目的とした感染症法改正案を臨時国会に提出する考えを表明した。
すでに9月21日、厚労省の専門家組織が、今年はインフルエンザが例年より早く流行する可能性に触れ、「コロナとの同時流行が懸念される」と警鐘を鳴らしていた。
その根拠のひとつになっているのが、日本での流行予測の目安となるオーストラリアで5月以降、インフルとコロナが同時流行したことだ。
「季節が日本とは逆の南半球のオーストラリアで、コロナ感染が続くなか、例年より早い4月以降にインフルエンザの感染者が増加。5月に入ると週あたりの感染者数が5000人を超え、同月末には2万5000人にまで急増しました。6月に入ってからも1週間あたりの感染者数が過去5年で最多にのぼり、一部の街からひと気が消えるなど“ツインデミック襲来”に揺れました」(全国紙厚労省担当記者)
「重症者」が増えたとの報告なし
東京歯科大学市川総合病院(呼吸器内科部長)の寺嶋毅教授がいう。
「オーストラリアだけでなく、同じ南半球の南米チリなどでも同時期、インフルエンザが流行しており、日本でも同時流行が起こる可能性は十分にあると考えたほうがいいでしょう。流行の素地としてこの2年間、手洗いやマスク着用などコロナ対策の効果で、世界的にインフルエンザの流行がなかったことが挙げられます。日本だけでなく、世界のインフルエンザ感染者は減少した反面、抗体保有率(免疫)も下がりました。感染によって得られる“総合的な免疫”がもっとも持続性が高いとされ、感染が減れば免疫力も減じることになる。オーストラリアなどで今回、インフルエンザの流行を招いた背景に、外出制限をはじめコロナ対策が緩和された点が指摘されています」
すでに日本でも大阪や宮崎、沖縄県などでインフルエンザによる小中高校や幼稚園の学級閉鎖などが報告されており、インフル流行の兆しは窺えるという。
「ただし、オーストラリアで同時流行により“重症者や死亡者が増えた”との報告は現状、確認されていません。またインフルエンザとコロナに“同時に罹った患者が重症化する”といったエビデンスも得られていない。過度に恐れる必要はありませんが、水際対策の緩和でインフル流行国から日本にウイルスが持ち込まれる可能性が増していることは確かです」(寺嶋氏)
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