「エルピス」「ファーストペンギン!」「アトムの童」 「秋ドラマ」注目の3作品に意外な共通点
10月期ドラマが始まる。プライムタイム(午後7時~同11時)には連続ドラマが15本並ぶ。その中から特に注目の3作を紹介したい。偶然だが、3作とも脚本は女性が書く。
フジテレビ「エルピス-希望、あるいは災い-」(月曜午後10時、24日~)
長澤まさみ(35)の4年半ぶりの連ドラ主演作。出演依頼が多数あり、仕事を選べる立場にある長澤が、この作品に惹かれたのは分かる。脚本家もスタッフも強力だ。
脚本は渡辺あやさん(52)。NHK連続テレビ小説「カーネーション」(2011年度下期)を手掛けた。この作品の脚本は同業の坂元裕二氏(55)や映画評論家の町山智浩氏(60)ら目利きたちから激賞され、朝ドラとしては珍しくドラマ各賞を受賞した。
昨年は松坂桃李(33)が主演し、やはり高い評価を得たNHK「今ここにある危機とぼくの好感度について」を手掛けた。過去、NHKと映画でしか書いたことがなく、民放連ドラは初めて。視聴率第一主義のプロデューサーが多い民放は肌が合わないと考えたからではないか。
ストーリーはこうだ。長澤が演じる主人公・浅川恵那は大洋テレビのアナウンサー。かつては「10年に1人の逸材」ともてはやされ、ニュース番組のサブキャスターなどを務めていた。
だが、激務に追われる日々を送るうち、徐々にくたびれてきた。人気にも陰りが見え始める。そんな中、魔が差す。路上キス写真を雑誌で報じられてしまった。
たちまちニュース番組を降板させられる。行き着いた先はどうでもいいような深夜の情報番組「フライデーボンボン」。そのコーナーMCを務めるようになった。社内外で「落ちぶれた」と嘲笑される。
「フライデーボンボン」には上司に叱られてばかりの若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦、22)がいた。自分の価値を見失っているという点では恵那と同じだった。
そんな拓朗が、ある連続殺人事件の死刑囚が冤罪ではないかと思い始める。約10年前に起きた事件だ。真実を調べようと決意し、ニュース番組出身者の恵那に協力を求めた。2人は真実を探し始める。
2人のアドバイザーになる報道記者・斎藤正一役で鈴木亮平(39)が共演する。連続殺人事件の背後には巨大な権力が見え隠れするため、政界中枢の事情に通じている斎藤の存在は欠かせなかった。
このストーリーは実際にあった事件に着想を得て紡がれた。冤罪に立ち向かう記者は実際にいる。一定のリアリティーが担保された作品になるだろう。
ちなみにタイトルの「エルピス」はギリシア神話に登場するパンドラの箱(原典では壺)に最後まで残っていたもの。この箱には人類にとって、さまざまな災厄が詰められていたが、エルピスは「希望」だったと一般的には解釈されている。
しかし、違う学説もある。災厄は辛いものだが、それに襲われることを事前に知ってしまうのはもっと苦しい。エルピスとは災いの訪れがあらかじめ分かってしまうことで、「予兆、予見」であるとも解釈されている。渡辺さんが深遠なストーリーを紡いでくれそう。
制作は関西テレビ。もっとも、演出するのは同社スタッフではなく、外部の大根仁氏(53)が担当する。これまでにテレビ東京「まほろ駅前番外地」(2013年)やNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019年)などを撮ってきた気鋭の人だ。
大根氏の所属先はオフィスクレッシェンド。クリエーター集団である同社にはTBS「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)などを演出した堤幸彦氏(66)たちがいる。
関テレは綾野剛(40)が主演した快作「アバランチ」(2021年)でも外部の人材を起用した。チーフ演出を映画「新聞記者」などを撮った藤井道人監督(36)に任せた。
視聴者側は面白い作品を観たいだけなので、外部人材の積極的な起用は歓迎すべきだ。
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