妻の出産時にも相手の家に…耐え忍んで“ご近所不倫10年”の43歳夫が打ち明ける不満

  • ブックマーク

「なぜこんなところに壁を?」

 4年ほどたち、恭美さんの息子が就職して自立していった。最初の配属先は関西となったため、夫がいないときはいつでも会える状態になった。

「ただ、近所の噂もありますから、目立たないように裏口から出入りしていました。恭美の家は古かったので、夫と相談してリフォームするということになった。その間、彼女はマンション住まい。あるとき急に出張することになったと妻には言って、夜中に恭美のところへ行ったことがあるんです。丸1日、彼女といちゃいちゃするつもりだった。ところが翌日の昼間、突然、息子が帰ってきた。マンションが見たかったらしいんですが、焦りましたね。駅前から電話があったので鉢合わせしなくてすんだけど、彼だろうと思われる男性とすれ違ったのは覚えています。さらに僕が出ていくところを誰かが見ていたらしい。『駅前のマンションからあなたが出てくるのを見たという人がいるんだけど、誰か知り合いでもいるの? あるいはマンションを買おうと思ってる?』と妻に言われて、ごまかすのが大変だった」

 不定期に訪れていたのだが、それでも何年も関係が続けば誰かに見られる。近所なのだから当然だ。それでも寛人さんは、「決定的なところは誰も見るはずがない。だからごまかせないはずはない」と思い込んでいた。

 恭美さん宅のリフォームが終わると、裏口からの出入りが通りから見られづらい造りになっていた。ここの壁を作るのが大変だったの、どうしてここに壁が必要なんだと夫に言われたと恭美さんは苦笑していた。

寛人さんが考える今後

 さらにそれから6年たち、いま、ふたりの関係は10年を迎えた。今も恭美さんへの気持ちは変わらない。夫が帰ってくれば会えないが、それ以外の時期は会い続けている。

「0歳だったうちの子が10歳ですからね。長いような短いような。結婚生活と、恭美との関係、同じだけの時間がたったけど、どちらが濃いとも言えないし、どちらがいいとも言えない」

 10年たてば状況も変化する。恭美さんの息子は2年前に転勤でこちらに戻ってきたが、ひとり暮らしをしている。2、3年のうちには夫が日本を拠点にすることになりそうだという。

「今度はほぼ日本にいて、たまに出張ということになるようです。そうなったら僕たちの関係はどうなるのか。外で会うようになるのかもしれないし、ときおり探りを入れてくる義父に証拠をつかまれるかもしれない。妻にバレて追い出される恐れもあります」

 寛人さんは淡々と、これから来る運命を待っているように見える。恭美さんへの気持ちは変わらないというが、もう覚悟ができているということなのか。

「何があっても恭美と別れる気はありません。でも自分から離婚を言い出すこともないと思う。息子とは毎週、一緒にサッカーをしたりして、今、彼との時間がとても楽しいんです。このままでいたい、このまま何も変わらないでほしいといつも願っています」

 恭美さんの気持ちも変わっていない。寛人さんは、僕はふたり分の人生を歩んでいるような気がすると言った。

「だから大変かもしれないし、だから楽しいのかもしれない。家族にバレないように大変だったともいえるし、耐えながら10年を過ごしたともいえる。こういう人生がよかったか悪かったかは最後までわからない」

 不倫も長く続くとマンネリになるのではないかと一般的には思われているだろうが、彼は恭美さんとの関係は慣れきったものにはなっていないと力説した。

「妻とは夫婦生活はありませんし、会話もマンネリですけど、恭美とは身も心も馴れ合いにはならなかった。相性の問題かもしれません。生活をともにしていないから、いつも新鮮な気持ちでいられる。ここ数年はふたりともスマホにしたので、連絡はますますとりやすくなっています。コロナ禍で僕もリモートワークが増えた。有料のワーキングスペースで仕事をすると言って家を出て、実際、そこで仕事はするけど終わると恭美のところへ直行したこともありますね」

 いろいろなことはあったが、恭美さんと一緒にいるためなら今後も、忍耐もするし工夫もすると彼はきっぱりと言った。

 家庭を捨てるつもりはないが、恋人とも別れない。不倫の恋は、比較的早く終わると思われがちだが、10年続く恋は珍しくはない。継続させていくというのも、それはそれでひとつの大きな決断なのかもしれない。

 ***

 寛人さんは10年間にわたって不倫を続けてきた。今後も恭美さんとの関係はしばらく継続しそうである。不倫の恋が冷めないのには、そこには「近所」というスリルも手伝っていそうだ。

 結婚当初から並行して不倫をつづけてきた寛人さんの行為が、世間一般の常識からして不誠実であることは論を俟たないだろう。我が子が誕生したタイミングで相手の家に居たなどは、その象徴的なエピソードである。

 一方、彼は要所要所で「怒る義父を無視して二階に上がった」という話を口にする。言葉の端々に「やってやった」という誇らしさがにじみ出ているようにも読める。

 やはり寛人さんの不倫は、義理の親、とくに義父との暮らしによって生じるストレスを解消するための意味合いも強いようだ。逢瀬の現場が二世帯住宅の近所という点も、義父のすぐ近くで彼を出し抜いてやっている、そんな優越感を満たす要素になっていそうだ。

 恭美さんの夫が帰国すれば、寛人さんは今後「外で会う」ことも考えているという。だが、それでも「近所」で密会するという、彼にとっての魅力からは逃れられないのではないか。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。