早くも危機に直面する「トラス政権」が“タブーの領域”に手を付け始めた

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「リーマンショック以上の打撃」との見方も

 窮地に陥ったトラス政権はタブーの領域にも手を付け始めている。

 リース・モグ・ビジネス・エネルギー・産業戦略相は9月26日「政府は排出量実質ゼロ化目標の達成に引き続き取り組んでいるが、ロシアが欧州でエネルギーを武器として利用する中、エネルギー安全保障を向上させ、企業や消費者に不当な負担を強いない形でこれを実現する必要がある」と述べ、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標の見直しに着手したことを明らかにした。

 過去に気候変動対策の必要性を疑問視する発言をしたことで知られているリース・モグ氏は「今回の見直しで、経済成長と企業を支援し、経済効率の高い目標達成方法を模索する」としている。見直し作業はスキッドモア元エネルギー担当相が率いる独立チームが行い、年末までに政府に報告書を提出する予定だ。

 2019年にメイ政権が世界の主要先進国に先駆けてこの目標を法制化し、続くジョンソン政権が2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)で主導的な役割を果たすなど、英国はこのところ世界の温暖化対策をリードしてきたが、未曾有の危機が襲来したことからエネルギー安全保障を優先せざるをなくなっている。

 トラス政権は目標見直しの表明を行う前に、2019年から停止していたフラッキング(高圧の水で岩石を砕いて天然ガスを抽出する方法)によるシェールガスの採掘を解禁することも発表していた。「地球温暖化を助長する」との理由から環境保護団体などが猛反対しているが、背に腹は代えられない。

 英国政府は「エネルギー供給を強化することが絶対的な優先課題であり、国内生産を増やすため、あらゆるエネルギー資源を探査する必要がある」と説明しているが、専門家の評価は冷ややかだ。フラッキングを解禁したとしても、実際の生産開始まで何年も要するため、今年の冬のエネルギー価格を下げる効果は期待できないからだ。英国内で掘削可能な大規模なガス資源があるかどうかも不透明だとの指摘もある。

 八方塞がりの状況の英国だが、足元のエネルギー危機はリーマンショック以上の打撃を欧州経済に与えるとの見方が強まっている。欧州全体が危機に陥れば、国際社会における温暖化対策の優先度は一気に後退してしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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