早くも危機に直面する「トラス政権」が“タブーの領域”に手を付け始めた

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 9月上旬に誕生した英国のトラス新政権は早くも試練に直面している。

 金融市場で英国債の利回りが急騰し、通貨ポンドも米ドルに対して過去最安値の水準で推移している。

 トラス新政権が矢継ぎ早に打ち出した大型の経済対策が「財政やインフレの悪化につながる」との警戒感を生んだためだ。

 首相に就任したトラス氏にとって「インフレ退治」が焦眉の急だった。

 トラス政権はまず、今後6ヶ月分のエネルギー高騰抑制対策として600億ポンド(約9兆3000億円)の資金を投じる計画を発表した。家計や企業の光熱費負担に上限を設け、超える分は政府が肩代わりするというやり方だ。

 さらに経済成長を下支えするため、50年ぶりの規模とされる大規模減税(450億ポンド相当)の構想も明らかにしている。予定していた法人税率の19%から25%への引き上げ凍結や国民保険料の引き下げなどが柱だ。だが、減税で需要を喚起する施策はインフレ圧力を一層高めるとの批判が出ている。

 こうした資金需要に対応するため、英国政府は2022年度の国債発行額を624億ポンド引き上げるとしており、その規模は当初案より5割以上増加する。

 積極財政を掲げる英国政府と金融引き締めに舵を切るイングランド銀行(中央銀行)との間の不一致も問題視され始めている。イングランド銀行は10月末から量的緩和策として買い入れた国債の売却を開始するとしており、財政の急拡大で悪化する国債の需給状況がさらに深刻になることが心配されている。

 このため、市場では「財政の収支を合わせられないのではないか」との疑心暗鬼が広がり、英国債と通貨ポンドの売りが急拡大したのだ。

深刻な景気後退の懸念

 英国では住宅市場の崩壊も懸念され始めている。金利高騰を受け、住宅金融機関がローンの提供を停止する動きが一気に広まり、住宅購入契約が急激に落ち込む恐れが出てきているからだ。

 1年前にわずか0.1%だった政策金利が来年9月までに5.9%に上昇するとの見通しを金融市場は織り込んでおり、来年に借り換えが必要となる約180万人分の住宅ローンの金利負担が急増することが予測されている。市場関係者からは「住宅価格は今後急落してしまう」との悲鳴が聞こえてくる。

 通貨取引量と外貨準備高のシェアで世界第4位のポンドと英国債の急激な売りは、世界の金融市場の新たな火種となりつつある。米アトランタ連銀のボスティック総裁は9月26日、トラス新政権の大規模な経済対策について「経済に不確実性をもたらす懸念と恐怖を感じている」と異例のコメントを出している。

 英国債市場の暴落を防ぐため、イングランド銀行は9月28日、長期国債を無制限に買い入れる市場介入に踏み切ったが、「政府が打ち出した経済政策を撤回しない限り、投資家の信頼回復は難しい」との認識が広がっている。

 経済のV字回復を狙ったトラス政権の賭けが裏目に出たために、英国経済は長期にわたる深刻なリセッション(景気後退)に陥る可能性が高まっている。

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