「私は夫の部下ではない」 定年退職した夫との会話を拒否する妻の“本当”の心情とは
妻を上から「評価」しないで
定年退職を迎えた夫も同じです。
家庭の中あるいは地域社会においては、圧倒的に妻の側が「先輩」です。それを、家事やコミュニケーションのスキルが高いとか低いとか上から目線で評価するのは、せいぜい主婦の先輩として姑が行うことであって、長年家庭に不在だった、ある種の外様だった夫が行うことではありませんよね。
もちろん、賢い姑ならば嫁の評価はしません。評価などしようものなら嫁姑戦争が起こってしまうと女性同士は分かっているため、互いに評価することを賢く避けています。
ところが、企業人としての生活が長い夫たちは、評価することに慣れています。
彼がまだ新入社員だった頃、あるいは勤務年数が浅かった頃に上司から評価を受けることは大きなプレッシャーであり、ストレスだったはずです。
企業人として成長し出世していくにつれて、評価されるのではなく評価する側にまわると、若い頃の「評価を受ける側」の気持ちを忘れてしまいがちですよね。
相談者の彼が、妻とこれから会話したい、穏やかに老後を過ごしたいと望むのであれば、気持ちを少し入れ替えてみることが大切です。
肩書は退職した企業の中に置いて
夫君は、企業人としては、執行役員という立派な肩書がありましたが、退職して家庭人としては、妻が先輩であり、夫は新入社員のような立場です。
たとえば台所では、食器や食材など、どこに何が置かれているのか分からない、洗い物をするときに使うスポンジは、鍋や食器によって使うスポンジも洗剤も異なります。
洗濯機を回すといっても、どこをどう回すのか分からない。
それは、入社したばかりの時は、社内の連絡ツールや社員食堂の使い方を知らなかったことと同じです。一つひとつ覚えましたよね。
新入社員の時は、取引先様のことがまだ分からなかったため一人で行くことはなく、先輩に連れて行かれました。長い年月をかけて先輩が培った取引先様との関係を壊すことのないよう、いずれ業務を引き継ぎできるよう、まだ内容が子細に分からなくてもあいさつだけはきちんとせよと教えられました。
それは、退職した後のご近所づきあいと同じです。妻は長い年月をかけてご近所様とのつきあい方や距離感を保ってきました。そこに新たに参加する定年退職夫は、妻とご近所様の関係を壊すことなく、まずあいさつをきちんとしましょう。
執行役員という肩書は退職した企業の中へ置いておかれて、家庭人としては素直な新人となられるといいですね。
離婚するわけではなく、一時期中断している妻との会話は、夫が妻を「評価する」のではなく、妻を「先輩」として認めることによって復活できます。
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