「私は夫の部下ではない」 定年退職した夫との会話を拒否する妻の“本当”の心情とは
袖口から見えるロレックス
少し照れくさそうに手で髪をかき上げ、また大きく腕を組み直して話します。
サマースーツの袖口から見えるのは、クロノグラフの腕時計。丸い文字盤の中にさらに三つの丸い時計がある。つまり、ストップウオッチ機能がついた高級腕時計。
ロレックスですか?
「ええ、私が執行役員になった記念に購入しました。いつかはロレックス、と憧れた世代でもありますので、着けた時は身が引き締まる思いでしたよ」
アップルウオッチを着けている男性が多い今の時代に、長針や短針だけでなく横に操作リューズが三つも付いている腕時計をしているのは、そこに彼の美学があるということでしょう。
彼が身に着けているロレックスについて、ひとしきり説明してくれます。
オーソドックスなタイプで、文字盤の中央軸に付いている針が秒積算計、30の目盛りがある針が分積算計で、12の目盛りを持つ針が時積算計。積算計を見て、経過時間を読み取ることができる優れた時計です。
クロノグラフは、飛行機のパイロットが必要な計算をすべて行うことができるからと開発された腕時計ですが、彼はパイロットではなく、60歳で定年退職を迎えた会社員ですので、やはり腕時計に彼の美学を感じます。
彼の持つ美学を、奥様は理解していらっしゃるでしょうか。
「いえ、理解しません。家内は私には関心を持っていませんし、私の側としても、妻に対しては、家事と子育て以上に求めるものはありません。妻は、育児のスキルはとても高い女性ですよ。それは私も認めます」
夫婦の「ホウレンソウ」はLINEで
その奥様が、なぜ突然「夫とは話をしない」と伝えてきたのでしょう。
そもそも、どんなふうに伝えてきましたか?
「LINEです。いわゆる『ホウレンソウ』は、今までもLINEで全部行ってきたのですが、私と話したくないなどと一方的にLINEで伝えてきたことにも、少し納得がいきません」
ホウレンソウとは、主に社内の「報告」「連絡」「相談」を略して言う言葉です。家庭の中でもホウレンソウという表現を使ってきたのでしょうか。
「当然ですよ。私は管理職ですが、仕事をするうえで最も大切なのはホウレンソウと若い頃から叩き込まれてきました。正しくホウレンソウを行い、自分の手にある作業仕事を手元から早く放すことが大切です。部下の指導もそのように行ってきましたが、弊社の社員は元来優秀でスキルの高い者ばかりですので、さして苦労はしませんでしたよ」
彼にとって「スキルが高い」のは大切なことのようですね。
会社の部下に対して、そのスキルの高さを認めていらっしゃるのは素晴らしいことですが、さて、夫婦間で、夫が妻に対して「スキルが高い」「スキルが低い」という表現を使うとどのような印象を受けるか少し考えてみましょう。
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