韓国に通貨危機の足音 ウォン急落に打つ手なく「地獄の釜」が開いた

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8月は経常赤字に転落か

 フロー――経常収支でも同様です。原油価格の高騰で日韓ともに貿易収支は赤字に陥った。しかし、日本は海外投資から得られる利子・配当たる第1次所得収支の黒字が大きく、貿易赤字を打ち消しています。

 一方、韓国も第1次所得収支は黒字ですが、貿易赤字を完全に消せるほど大きくはない。10月7日発表予定の8月の国際収支統計では、貿易赤字の拡大により経常収支がついに赤字に転落すると見るエコノミストが多いのです。

 外準を増やす源泉は経常収支ですから、その赤字が増えるほどに、韓国の信用は損なわれていきます。

 ちなみに2021年1年間の国際収支統計を見ると、日本の第1次所得収支は20・5兆円で、貿易収支の1・7兆円の12倍です。韓国の第1次所得収支は193・3億ドルで、貿易収支の762・1億ドルの4分の1に留まっています。

 別段、貿易収支よりも第1次所得収支の方が「高級」とか「上質」というわけではありません。ただ、原油高などで貿易赤字が発生した際に打ち消せる力があり、今、日本でそれが発揮されているのです。

政府不信という宿痾

――内実が大きく異なるのですね。

鈴置:日韓で一番異なるのが、国民の政府に対する信頼でしょう。韓国では1997年も2008年も政府が「絶対に通貨危機には陥らない」と豪語していたのに、いとも簡単に危機を迎えた。

 突然の馘首や激しいインフレに苦しめられた国民は政府を信用しなくなり、危機の足音が聞こえると自己防衛――ウォン売り・ドル買いに出るようになりました。もちろん、この行動は通貨危機を激化させます。

 朝鮮日報の社説「ウォン急落の中、短期外債急増、『安全ベルトをしっかり締めろ』という警告だ」(9月6日、韓国語版)は一般投資家の外貨資産への投資が急増した結果、短期の外債が増えていると警告しています。

――悪循環ですね。

鈴置:政府への不信感こそが、韓国の宿痾(しゅくあ)です。朝鮮戦争の際に生まれたと説明する韓国人が多いのですが、それ以前――李氏朝鮮からのもののような気もします。

「不信感」は韓国を分析する際に必須の視点です。『韓国民主政治の自壊』第1章第2節「宗教に昇華した『K防疫』」で詳しく考察しました。

「3密」以前から外出控えた韓国人

――日韓は、そんなに異なるものですか!

鈴置:新型コロナに関しても、韓国では政府が警告する前から外出する人がグンと減りました。政府の「3密」の呼びかけでようやく減った日本とは対照的だったのです(『韓国民主政治の自壊』40ページ)。

 自分は自分で守る、という意識が韓国では徹底しているのです。これ自体は決しておかしいわけではないし、ある意味で当然でしょう。

 2020年春に資本逃避が起きた時、韓銀がウォンを買って通貨を防衛しているというのに、一部の政府高官はウォン売り・ドル買いに出て自分の資産を守ろうとしました。

 普通の韓国人が今、ドル買いに走るのは当たり前です。ただ、この宿痾が韓国の危機を呼ぶのも事実なのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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