山上徹也容疑者と世間を震撼させた「迎賓館ロケット事件」 ローンウルフ対策を考える
迎賓館ロケット弾事件
勝丸氏は、マンションの住人の「(山上の部屋から)金属を叩く音がした」という証言から昔の過激派の事件を思い出したという。
「東京サミットが開催された1986年5月4日、新左翼の中核派が新宿区矢来町のマンションの4階からロケット弾を5発、サミットの会場になった元赤坂の迎賓館に向けて発射。大騒ぎになりました。あの時のことが頭をよぎりました」
当時の報道によると、「ドーン」という大きな爆発音とともに発射された弾は、2.5キロ離れた迎賓館を飛び越え、カナダ大使館前の青山通りに着弾した。2発目は衆院副議長公邸、3発目は新坂40ビル、4発目は第45興和ビル、5発目はタウンハウス赤坂に着弾した。この事件で1987年と1993年に中核派の活動家計4人が逮捕された。
「警視庁は、警戒ゾーンを半径2キロ圏として警察官を配置していました。この事件を受け、急遽半径4キロに広げました。さらに、アパートやマンションで不審者情報の提供を求めるチラシを10万枚つくり、4キロ圏内に住む住人に配ったのです」
マンションの住人は、中核派のメンバーが借りていた部屋から金属を叩く音を聞いていたという。
「このサミットの事件以後、警視庁公安部は国際的イベントや大きな国のイベントがある時は、不審な住人がいないか周辺のマンションの管理人に話を聞く『管理者対策』を行うようになりました。安倍晋三さんの国葬でも、武道館周辺のマンションをまわって、管理人から不審者情報を入手することになっています」
国内のテロ組織やカルト宗教などは、その内情をある程度把握することが可能だ。犯行の予兆をつかめる場合がある。しかし山上容疑者のようなローンウルフには有効な手だてがない。
「2016年4月、警察庁は警備局にネット上の情報を分析する『インターネット・オシント(OSINT)センター』を設置しています。オシントはオープン・ソース・インテリジェンスの略で、主に対象となるのはイスラム過激派やサイバー攻撃をする組織だけで、テロやサイバー攻撃につながる情報を自動収集しています。ローンウルフまで捕捉するには、情報収集範囲をもっと広げて、個人の過激な発言はすべて対象にするべきですね。ただ、物理的にどこまで収集できるか。なかなか難しい問題ではありますが」
さらに、今回のように部屋から金属音がするなどの不審者情報も警察はもっと積極的に収集する必要があるという。
「とはいえ、不審者情報をすべて110番されたら、警察にかなりの負担となります。例えば、警視庁や警察署のホームページに情報提供の窓口を設ける仕組みを作るのはどうでしょうか」
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