最終戦で2本塁打の大逆転! あまりにも熾烈過ぎるタイトル争いの結末

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「ほんと今日はよう走ったなあ」

 日本タイの1試合6盗塁の離れ業で逆転し、初の盗塁王に輝いたのが、1989年の広島・正田耕三である。

 同年のセ・リーグ盗塁王争いは、10月14日の時点で、ヤクルトのルーキー・笘篠賢治が「32」でトップ。2位・正田は4差の「28」で、残り3試合とあって、2リーグ制以降初の新人の盗塁王(史上2人目)誕生が濃厚とみられていた。

 ところが、10月15日の中日戦で、あっと驚く大逆転劇が演じられるのだから、野球は最後の最後までわからない。初回に一ゴロエラーで出塁した正田は、次打者・野村謙二郎の初球に二盗を決めると、捕逸で三進後、野村の中犠飛で先制のホームを踏んだ。

 2回にも一塁内野安打で出塁すると、二盗、三盗を相次いで決め、捕手・山崎武司の悪送球に乗じて生還。さらに5回にも右前安打で出ると、野村の初球に二盗。3球目に三盗を成功させ、ついに笘篠を逆転した。

 山崎から正捕手・中村武志に代わった7回にも、正田は1死から中前安打で出塁すると、野村の2球目に二盗を決め、1952年の山崎善平(中日)以来の1試合6盗塁の日本タイ記録を達成。なおもベンチの「行け、行け!」の声を受けて、三塁を狙ったが、中村の強肩に刺され、残念ながら新記録達成ならず。

 5個目のあと、広報から日本記録のことを聞いたという正田は「勢いと思い切りだけですよ。盗塁は自分でもうまいと思っていないけど、6個目はベンチでも行け行けモード。アウトになってもともと。結果オーライですよ。ほんと今日はよう走ったなあ」と満足そうな笑顔を見せた。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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